第18話

そこでこんなアプリを手に入れたのだから、神様とか、天使とか言いたくなってしまうのだ。



「ね、そうとなったらもう1度アプリの説明をちゃんと読んでみようよ」



「そうだね」



あたしは頷き、《恐怖アプリ》を表示させた。



1、恐怖を与えたい相手の写真をアプリ内にUPします。



2、アプリがなんらかの恐怖を相手に与えます。



3、相手に恐怖を与えることにより、利用者も損失を負います。



「この恐怖って、自分で決めることもできるんだね」



夢が画面の下を指さして言った。



そこには恐怖の内容を自分で決めて記入することもできると書かれている。



アプリのやり方が気に入らなければ、自分で決めればいいのだ。



「でも、自分にも戻ってくるんだからあんまり激しいことは書けないよね」



そう言うと夢は一瞬唇を尖らせて、不服そうな表情を浮かべた。



しかし、次の瞬間にはいつも通りの笑顔を浮かべている。



「今度は自分でなにか決めてみたらいいよ」



「そ、そうだね」



今なにか言いたそうだったけど、気のせいだったのかな?



「次は誰にする?」



身を乗り出して聞いてくる夢。



2度も靖で試してみたから、今度は違う人がいい。



でも、選ぶのはもちろん4人の中からだ。



「やっぱり、陸かなぁ」



あたしは呟くように言う。



すると夢はゆっくりと頷いた。



陸は美紀の彼氏だけれど、2年生に上がるまでその存在すら知らなかった。



やけに体格のいいクラスメートがいるなと思っていたけれど、それが陸だった。



2年生に上がってから美紀はあたしと夢とイジメはじめた。



そうなると、陸も当然のようにあたしたち2人をイジメはじめたのだ。



『ほんと、女ってすぐ泣くよなぁ』



美紀にお弁当箱を捨てられたとき、陸はめんどくさそうにそう言ってきた。



それならほっておけばいいのに、泣いている人間を見ると更にイジメたくなる性格をしているらしい。



陸はごみ箱からお弁当箱を拾い上げたあたしの体を突き飛ばしたのだ。



そのまま横倒しに倒れ、クラスメートたちはあたしから逃げるように席を立った。



誰か助けて!



そう思って視線を向けても、助けてくれる人は誰もいない。



陸はニヤ付いた笑みを浮かべて近づいてくると、あたしの前髪をわしづかみにして、無理やり立たせた。



頭皮がビリビリと焼けるように痛くて、余計に涙が滲んだ。



『ほら、声出して泣けよ』



陸は面白がるように言うと、あたしの体を力任せに突き飛ばした。



筋肉質な陸に突き飛ばされたらひとたまりもない。



あたしの体は簡単に教室の後方の壁にぶつかり、そのまま座りこんでしまった。



それでも陸はやめなかった。



無理やり立たせて突き飛ばす。



それを遊びのように何度も何度も繰り返したのだ。



当時の出来事を思い出して苦いものがこみ上げてくる。



もちろん、これと似たようなことを夢もされてきた。



「陸は許せないよね」



見ると夢の表情は険しくなっている。



あたしは頷く。



「どんな恐怖を与えるのかは靖子に任せるよ。損失を負わされるのは靖子だから」



その損失さえなければ、どれだけ相手に恐怖を味わわせることができるだろうか。



そう思うが、決められたことなのだから仕方なかった。


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