第17話
翌日は学校が休みの日だった。
あたしは午後から夢と約束をしてファミレスへ来ていた。
昼ごはんを食べ終えてから、あたしはスマホをテーブルに置いた。
「で、昨日の損失はなんだったの?」
お腹が落ち着いた夢がさっそく質問してきた。
聞きたくて仕方なかったのだろう。
「お気に入りのカップが割れたの」
説明すると夢がキョトンとした顔になり「それだけ?」と、聞いてきた。
「うん」
「怪我は?」
「なかったよ」
あたしの返事に夢の表情はみるみる明るくなってきた。
「前の時は宿題のプリントが川に落ちたんだったよね」
「そうだね。靖はドブにはまったけど」
夢はうんうんと何度も頷いている。
「相手へ与えられる恐怖に比べると、損失は大したことないってことだよね?」
夢の言葉にあたしは頷いた。
それは自分自身でも感じていたことなのだ。
靖は怪我までしたのに、あたしは無傷のまま。
宿題の件にしても、どうにでもなるようなことだった。
アプリからの通知がなければ、損失を与えられたとも気がつかないかもしれない。
「そのアプリ、あたしも欲しい!」
キラキラと目を輝かせる夢。
「本当に?」
「だって、こんないいアプリ他にはないでしょう?」
それはそうかもしれないけれど、下手な使い方はできないアプリだ。
「もっと慎重になった方がいいんじゃない?」
「大丈夫だって!」
夢はそう言うとアプリをダウンロードできるサイトを表示させた。
そして《恐怖アプリ》を検索する。
「これじゃないよね?」
出てきた画面を見せて聞いてくる。
画面上にはいくつかのホラーゲームが表示されていた。
もちろん、あたしが持っているアプリはこんなものじゃない。
「全然違うね。どうして出てこないんだろう?」
何度か検索する言葉を変えてみても結果は同じ。
あたしが使っている《恐怖アプリ》は出てこなかった。
それでも夢に落胆した様子は見られなかった。
むしろ、ますます目を輝かせている。
「やっぱり、そうじゃないかと思ってたんだよね」
「どういうこと?」
「そのアプリをダウンロードしたのは見知らぬおばあさんだったでしょう? だから靖子は選ばれたんだよ」
夢の言葉にあたしは瞬きを繰り返した。
「あたしが選ばれた?」
「そうだよ! あのおばあさんに選ばれたの」
突然声をかけてきたおばあさんを思い出す。
80代くらいの、ごく普通のおばあさんに見えた。
「あの人はきっと天使だったんだよ。あたしたちを助けるために来たの」
「なに言ってるの」
あたしは夢の言葉に笑ってしまった。
でも、そう思いたい気持ちはよくわかる。
なにせあたしたちは毎日散々イジメられてきたのだ。
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