第15話
夢は落胆したように天井を見上げた。
「やっぱりそうだよね。そんな都合のいいもの、この世にあるわけないよね」
「夢……」
夢は隠しているけれど、その目に涙が滲んでいるのが見えてしまった。
咄嗟に視線を外し、気がつかなかったふりをする。
「今日は早退しちゃおうよ!」
パッと笑顔を浮かべてあたしは言った。
「早退?」
夢がこちらへ顔を向ける。
「うん! これだけ頑張って登校してるんだもん、少しくらいサボったって大丈夫だよ」
そう言うと夢は瞬きを繰り返した後、ニッコリと笑った。
「そうだね。たまにはいいよね?」
「うん!」
あたしは大きく頷くと、右手にお弁当箱、左手で夢の手を握り締めて立ち上がった。
あの4人になにか言われる前に学校を出よう。
「行こう夢」
「うん!」
2人で空き教室を出て教室へ戻る途中、トイレから靖が出てきた。
その姿を見た途端あたしと夢の歩調は遅くなってしまった。
幸いにも靖はあたしたちに背を向けて歩き出す。
このまま気がつかずに教室まで歩いてくれればいい。
気がつかれて、無駄に嫌みなどを言われてはたまらない。
あたしと夢は息を殺して靖の後ろ姿を見つめる。
その時だった。
吹き抜けになった廊下にたどり着いたとき、頭上からガタッと物音が聞こえてきたのだ。
あたしと夢は同時に見上げた。
上の教室の窓から植木鉢が見えている。
どうしてあんな場所に植木鉢が置かれてるんだろう?
それは窓のさんの上に置かれているようで、不安定に揺れているのだ。
不思議に感じていたその時、植木鉢がバランスを崩して落下してくるのが見えた。
その真下には靖の姿。
靖は何も気がつかずに歩いている。
そこからか「危ない!」という声が聞こえてきたが、遅かった。
靖が声に反応して立ちどまったとほぼ同時に、植木鉢が地面に落下して割れていたのだ。
すさまじい音が周囲に響き渡り、悲鳴が上がる。
靖が「ギャッ!」と短く悲鳴を上げ、両手で鼻を押さえてうずくまるのを見た。
「大丈夫ですか!?」
見ず知らずの生徒が慌てて駆け寄っていく。
靖が顔をあげた瞬間、両手の隙間からボトボトと血が流れ出しているのが見えた。
植木鉢は靖の鼻を掠めて落下したみたいだ。
「歩けますか? 保健室に行きましょう」
生徒に支えられ、どうにか立ち上がる靖。
しかし足元はおぼつかず、ヨロヨロと左右に揺れている。
衝撃的な現場に遭遇してしまい、唖然としてしまう。
「もしかしてこれって……」
夢が呟いた時、あたしのスマホが震えた。
突然のバイブ音にビクッと体をはねさせて、画面を確認する。
『恐怖を与えました』
それはアプリからの通知だった……。
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