第11話

☆☆☆


靖に怒鳴り返した時、気分はとてもスッキリとしていた。



たったこれだけで普段からのイジメをチャラになんてできないけれど、それでも晴れ晴れする。



しかし、それもだんだんと薄れていき、じきに後悔が襲ってきた。



「あんなこと言っちゃって、どうしよう……」



教室までの帰り道、あたしは落ち込んでしまっていた。



靖にあんなことを言ったらただじゃすまないことくらいわかっていた。



きっともっとひどいイジメを受けることになる。



考えただけで気分が悪くなってきてしまった。



「その時はあたしも一緒だから大丈夫だよ」



夢があたしの手を握って言った。



その温かさに少しだけホッとしたのだった。



しかし、予想に反して今日は平穏な一日を過ごすことになった。



イジメのリーダーである美紀が早く帰宅したため、他の3人も帰ってしまったのだ。



こんな放課後は久しぶりのことだった。



「なぁんか、平和だね」



久しぶりに早く帰れることもあり、あたしと夢はのんびりと河川敷を歩いていた。



天気もいいし、川も綺麗だし、ベンチに横になって昼寝したくなってくる。



「本当だね。最近毎日放課後は呼び出しだったもんね」



夢が苦笑して言う。



毎日放課後になるとイジメられるなんて、あたしたちはどれだけ不幸なのだろうかと思ってしまう。



それでもこうして学校に行きつづけることができるのは、1人じゃないからだった。



「そうだ。ついでに宿題やっちゃおうかな」



ベンチに座り、鞄からプリントを取り出す。



今日の宿題はこれ1枚だからそんなに時間もかからない。



「いいね。2人でやったら早いよね」



夢も同意してプリントを取り出す。



さっそく問題を読んで行こうとした、その時だった。



強い風が吹いて、手元のプリントを舞上げたのだ。



「あっ!」



咄嗟に手を伸ばすが届かない。



プリントはどんどん風に飛ばされて、川に落ちてしまった。



このままじゃ流されちゃう!



慌てて川岸まで走り、靴と靴下を脱いで川に入った。



流れは穏やかで水もそれほど冷たくない。



「靖子大丈夫?」



「平気平気!」



夢に片手をあげて見せてプリントを拾い上げた。



プリントはビショビショに濡れてしまって、乾かさないと使い物にならなくなってしまった。



「あ~あ、せっかく終わらせようとしたのに……」



こんなときに限って強い風が吹くなんて、つくづくついてない。



あたしは濡れたプリントを下敷きに張り付けた。



天気もいいし、こうしておくと勝手に乾くはずだ。



「スマホなってない?」



夢に言われて確認すると確かにスマホが光っていた。



「え?」



画面を確認して呟く。



「どうしたの?」



覗き込んできた夢にあたしはスマホ画面を見せた。



そこには赤い文字で『損失を与えました』と書かれているのだ。



あたしと夢は目を見かわせる。



そして今拾ってきたプリントを見つめた。

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