第10話
一刻も早くここから立ち去りたいと思った。
夢が無理して笑っている時間を少しでも減らしてあげたかった。
食堂に到着するとようやく一息つけた気がした。
夢はおにぎり2つとお茶を買って、あたしの隣に座った。
「ここにいたらあいつらいないし、毎日食堂で食べてもいいくらいだよね」
あたしはお弁当のウインナーを口に運んで言った。
教室でいつなにをされるかわからずドキドキしているよりも、ずっとマシだ。
「そうだよね。今度からそうしようか」
夢も笑っている。
でも、そんなちょっとした会話もすぐに打ち消されることになった。
入口から靖が入ってきたのだ。
まさか追いかけてきたのだろうか。
そう思って警戒する。
しかし、入ってきたのは靖1人で、美紀たちの姿はなかった。
「お、なんだよお前らこんなところで食ってんのか」
小銭を握り締めた靖はあたしたちに気がついて声をかけてきた。
自然と表情が険しくなるのを感じる。
「あ、そっかー。弁当ひっくり返されたんだっけ? ひっでーことするやつがいるよなぁ」
靖は大声でそう言い、下品な笑い声を上げる。
夢がうつむき、下唇を噛みしめた。
「ところであの弁当早く片付けろよ? 教室中くっせーくっせー!」
靖は鼻をつまんで夢へ向けて言った。
その言動に自分の中で何かがキレるのがわかった。
気がつけばイスを倒して立ちあがっていた。
靖を睨みつける。
「なんだよお前」
靖は少しひるみながらもあたしを見下ろす。
さすがに身長で勝つことはできない。
「なによ。今朝ドブにはまったくせに! あたし見てたんだからね!」
思わず言ってしまった。
靖が唖然とした顔で硬直する。
周囲にいた見知らぬ生徒たちが、間を置いて笑いだした。
「ドブにはまったんだってよ」
「ダッセー」
「やだあの人、恥ずかしくないのかなぁ?」
そんな声があちこちで聞こえてきたとき、靖の顔がカッと赤くなっていった。
「だ、黙れ!!」
靖は怒鳴り声を上げると、何も買わずに食堂から出ていったのだった。
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