第9話
「え?」
あたしは目を見開いて夢を見た。
「だって、靖の写真をUPしたんだよね? それで、恐怖を与えられたってことじゃないの?」
「そうなのかな……?」
靖がドブにはまったこととアプリを関連付けて考えてなどいなかったので、あたしは驚いてしまった。
でも、そんなことあるはずない。
これは単なる偶然だ。
そう思ったのに……。
不意にポケットの中のスマホが震えて、あたしは画面を確認した。
またアプリが勝手に起動されていたようで、赤い文字で《恐怖を与えました》と書かれていたのだ。
「なにこれ」
なんだか気味の悪さを感じて顔をしかめる。
「まさか、今朝の出来事は本当にアプリのおかげだったりしてね?」
「まさか、そんなことあるはずないじゃん」
あたしがそう返事をしたとき、アプリは勝手に閉じてしまったのだった。
☆☆☆
靖はホームルームには遅刻したけれど、ちゃんと登校してきていた。
ドブにはまったということはもちろん黙っていて、美紀たちと変わらぬ日常を過ごしている。
つまり、あたしと夢をイジメているということだ。
「ほんと、腹立つ」
昼休憩中、トイレに立ったあたしは鏡へ向けて呟いた。
「靖のこと?」
隣りで手を洗う夢が聞いてくる。
「うん。ドブにはまったくせにさ」
「それ、何度も言うよね」
夢が笑いながら言う。
美紀たちと一緒にいる時の靖は気が大きくなるようで、一番嫌みを言ってくるのだ。
その度につい今朝のことを口走りそうになってしまう。
それを言うと自分たちがどうなるかわかっているから、我慢しているけれど。
「さ、早く戻ってご飯にしようよ」
夢にせかされて、あたしはトイレから出たのだった。
教室へ入った瞬間、クラスメートたちの視線を感じた。
ある者は憐みの視線を。
ある者は見下した視線を。
ある者は興味のなさそうな視線を向ける。
その視線にからめとられたあたしは嫌な予感がして、夢と目を見かわせた。
そして美紀たちへ視線を向ける。
案の定、美紀たちはあたしたち2人を見てクスクスと笑い合っている。
トイレに行っている間になにかされたのは明白だった。
なんどもやられていることなのに、教室に入ったこの瞬間はとてもつもなく嫌な気分になる。
あたしたちの味方なんてどこにもいないのだと、突き刺さる視線に思い知らされるから。
自分の席へ戻った夢が大きく息を吐き出すのを見た。
夢の机の上にはお弁当箱が置かれている。
しかし、それは蓋をあけられ、逆さまになっていたのだ。
「夢……」
「大丈夫大丈夫。今日は食堂で食べたいと思ってたんだよね」
夢の明るい声に、安堵するクラスメート。
そしてつまらなさそうに舌打ちするクラスメート。
「そ、そっか。じゃあ行こうか!」
あたしは自分のお弁当を持って、夢と2人で教室を出た。
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