第8話
そして学校が近付いてきた時だった。
同じ制服姿の生徒たちと混ざって歩いていると、前方に靖の姿を見つけた。
歩みは自然と遅くなる。
朝っぱらから見たくない顔だ。
できるだけ靖と距離を置いて歩いていた、そのときだった。
スマホを見ながら歩いていた靖が足もとのドブに気がつかず、はまってしまったのだ。
あたしはギョッとして立ち止まる。
同時に周囲から笑い声が聞こえてきて、思わず噴き出してしまった。
靖は慌てて足を引き上げたが、時すでに遅し。
白いスニーカーはドブ色に染まり、歩いて登校している生徒たちは靖から逃げるようにして通り過ぎている。
すごいところを見ちゃった。
笑いをこらえながら、足早に靖の横を通りすぎた。
幸い、靖はドブにはまってしまったことがショックだったようで、あたしには気がつかなかったのだった。
☆☆☆
頑張って登校すれば、朝からこんなに面白いものを見ることもあるんだ。
いい気分になって2年D組の教室に入ると、夢が駆け寄ってきた。
「靖子、昨日のアプリ大丈夫だった?」
挨拶もなしにそう聞いてくる。
よほど心配だったみたいだ。
「なんか変な気はするけど、今のところなんともないよ」
返事をして席へ向かう。
夢はホッとしたようにほほ笑んだ。
「よかった。あのおばあさん一体なんだったんだろうね?」
「本当にそうだよね。あたしからスマホを奪った時の動き、おばあさんのものじゃなかったよ」
あたしは昨日の出来事を思い出して言う。
あの俊敏な動きはあたしでも無理っぽい。
「そういえば、夜中にあのアプリが勝手に起動してたんだよね」
「え、それってやっぱりヤバイんじゃないの?」
夢がまた心配そうな顔をするので、あたしは左右に首を振った。
「ただ写真をUPしただけだから大丈夫」
「それって、アプリの説明にあったやつ?」
聞かれてあたしは頷いた。
「誰の写真をUPしたの?」
途端に小声になる夢。
なんだかんだ言って、そういうところは気になるみたいだ。
「靖の写真にした」
あたしがそう言うと、夢はキョロキョロと周囲を見回した。
「そう言えば靖、今日はまだ登校してきてないね?」
もう美紀たちも来ているのに、靖の姿は見えない。
あたしは今朝靖がドブにはまった場面を思い出し、こらえきれずに笑ってしまった。
美紀たちが怪訝そうな顔をこちらへ向けてきたので、慌ててそっぽを向く。
「靖は今朝ドブにはまったんだよ。だから一旦帰って靴とか履き替えてくるんじゃないのかな?」
その説明に一瞬夢はキョトンとした表情を浮かべ、それから笑い始めた。
「ドブって、嘘でしょう?」
「本当だよ。あたしの目の前にいたんだから」
思い出してもやっぱり面白い。
スマホばかり見て歩いているから、あんなことになるんだ。
「それってさ、アプリの力ってこと?」
ひとしきり笑った夢が言う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます