第4話
夢も同じだ。
誰かがイジメられるくらいなら、自分がイジメられた方がマシ。
そう考えている。
だからこそ、あたしたちは今こんな目にあっているのだから。
昔の出来事を思い出しそうになったとき、不意に後ろから声をかけられた。
「そこのおふたりさん」
そのしわがれた声に立ち止まり、同時に立ち止まって振り向いた。
そこに立っていたのは80代くらいに見える、見知らぬおばあさんだった。
長い白髪を一つにまとめてお団子にし、腰が曲がっていてとても小さく見える。
「はい、どうしたんですか?」
道でも聞きたいのだろうかと思い、あたしは腰をかがめておばあさんと同じ目線になった。
その瞬間だった。
おばあさんは80代とは思えぬ早さであたしのスマホを奪い取っていたのだ。
スカートに入れていたはずなのに!
あっと思った瞬間にはおばあさんは人のスマホを勝手にいじっていた。
「ちょ、ちょっと、なにするんですか?」
驚いて声が裏返ってしまう。
おばあさんはそれに返事をせず、スマホをつついていたかと思うとすぐに返してきた。
そして「じゃあね」とひと事言うと、来た道を引き返して行ってしまったのだった。
「なにあれ……」
夢が瞬きをして呟く。
「わかんない。ビックリした」
そう返事をして手の中のスマホを見つめる。
あのおばあさんはどうしてスカートの中にスマホがあるってわかったんだろう?
疑問を感じて首をかしげつつ、スマホを操作してみる。
なにかされていないだろうかと確認したところ、見たことのないアプリがダウンロードされていることに気がついた。
「恐怖アプリ?」
アイコンにつけられたアプリタイトルを読み上げてあたしは眉間にシワを寄せる。
「なにそれ?」
夢も横からあたしのスマホを覗き込んで首をかしげている。
「こんなアプリダウンロードした覚えがないよ」
「じゃあ、さっきのおばあさんが勝手にダウンロードしたってこと?」
きっとそうなんだろうけど、あんな短時間であんなおばあさんがアプリをダウンロードすることなんてできる?
そう考えてますますわからなくなっていく。
そして重大なことを思い出し思わず「あっ!」と、声を上げていた。
「どうしたの靖子?」
「あのおばあさん、どうしてスマホロックを解除できたんだろう」
あたしのスマホは6桁の暗証番号を入力するか、指紋認証になっている。
どちらを解除するにしても時間はかかるはずだ。
でもさっきのおばあさんはものの数分でスマホを返してきた。
そう考えた瞬間ゾッと背筋が寒くなるのを感じた。
イジメられているときとは違う、別の寒気に襲われて身震いをする。
「さっきのおばあさん、ちゃんと足ついてたよね?」
おばあさんに人間ならぬものを感じてあたしは夢に聞いた。
夢は何度も「あったよ」と、頷く。
それにホッとしながらも、あたしはスマホ画面を見つめた。
《恐怖アプリ》ってなんだろう?
聞いたことのないアプリだ。
でも消しておいた方がよさそうだ。
あたしはアプリのアイコンを長押しして削除ボタンを表示させようとした。
しかし、削除ボタンが出てこない。
「あれ、おかしいな……」
普段不要になったアプリはこうやったら削除できるのに。
「どうしたの?」
「消せないの」
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