第3話
「なに? あんたも友達を守りたいの?」
その質問に返事ができなかった。
もちろん守りたい。
だけど、美紀がどんな返事を望んでいるかがわからなくて、黙りこんでしまった。
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「聞いてんだよ!」
美紀が怒鳴ると同時に顎に痛みが走り、横倒しに倒れ込んでいた。
どうやら蹴られたらしい。
少しするとズキズキとした痛みを感じられた。
横で夢が小さく悲鳴をあげて両手で口を覆っている。
そんなにひどく蹴られたんだろうか?
一瞬の出来事だったから、自分ではよくわからなかった。
「あ~あ、ほんとこいつら見てるとイライラする。ねぇそうでしょう? 愛子」
「え、あ、うん! そうだよね!」
ずっとスマホで撮影していた愛子が慌てて愛想笑いをして頷く。
「なんかお腹も減っちゃったし、もう行こうよ」
美紀が陸の腕に自分の腕をからませて歩き出す。
それに続いて陸と愛子も慌てて教室を出ていった。
4人の足音が遠ざかっていくなか、顎の痛みは更に激しさを増していた。
緊張感が解けたせいだ。
「靖子、大丈夫?」
「なんとかね」
そう言って笑顔を浮かべると、痛みは増す。
しばらくはご飯を食べるのも大変そうだ。
「でもよかったね。今日は早く終わって」
あたしはそう言いながら立ち上がり、制服のヨゴレを払った。
いつの間にかブラウスが破れている。
「ごめん、あたしなにもできなくて」
夢は申し訳なさそうに言う。
その目にはやっぱり涙が浮かんでいる。
「なに言ってるの。今回はあたしが夢を巻き添えにしちゃったんだから、気にすることないよ」
明るい声でそう言っても、夢は左右に首を振ってボロボロと涙を流す。
あたしはそんな夢の手をずっと握り締めていたのだった。
☆☆☆
学校から出ると辺りは薄暗くなり始めていた。
でも、しばらく2人で泣いたから気分はスッキリとしている。
「明日もなにかされるのかなぁ」
夢が憂鬱そうな声で言う。
「そうだね……」
あたしは呟くように答える。
残念だけど、明日になったからと言って世界が変わるわけじゃない。
あたしたちへのイジメが一瞬になくなることなんてありえないのだ。
美紀たちはきっと次のターゲットが決まるまであたしと夢を徹底的にイジメるはずだ。
「でもさ、誰かがイジメられているのを見るよりもよくない?」
気分を変えるため、あたしは言った。
「そう……かもね?」
夢は顔をあげて答える。
例えばクラスメートの誰かが今日みたいにイジメられていたら。
それを知って何もできずにいたら。
あたしはきっとそっちの方が嫌だと感じるだろう。
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