第2話

「なんだよ、つまんねーこと言うなよ」



そう言ったのは美紀の彼氏である陸だ。



陸は制服の上からでもわかるほど筋肉質で、逆らったらどうなるかわからない威圧感をたたえている。



「別に、許すなんて言ってないじゃん?」



美紀がニヤついた笑みを浮かべてあたしと夢の前に立つ。



あたしは無意識のうちに夢の手を握り締めていた。



「2人とも、言われたことができなかったんだから、土下座してよ」



一瞬美紀の言葉の意味が理解できなかった。



背中に汗がながれていく。



さっき突き飛ばされてこかされたため、腰が痛かった。



「それいいね!」



そう言ってスマホをこちらへ向けたのは愛子だった。



愛子はニヤニヤとねばついた笑みを浮かべている。



あたしはゴクリと唾を飲み込んだ。



このまま4人の言うことを聞いていれば、いずれあたしたちは奴隷のようになってしまう。



わかっているけれど、今ここから脱出する方法を考えることができなかった。



たとえば大声で助けを呼ぶとか、素早くスマホで誰かに連絡するとか。



頭の中で考えることはできても、それが失敗したら?



と、マイナスな方へ思考回路は流れていく。



もし失敗すれば、きっと今よりもっとひどくイジメられるだろう。



だけど今なら土下座で終わるのだ。



悔しくて悲しいけれど、痛い思いをすることはない。



あたしは横目で夢を見た。



夢はうつむき、かすかに震えている。



目の端に涙が浮かんでいるのだ見えた。



あたしは夢の手をきつく握り締めた。



これ以上夢に迷惑をかけるわけにはいかない。



そう思い、あたしは美紀を見上げた。



美紀は無表情であたしを見下ろしている。



「すみませんでした」



あたしは震える声で言い、頭を下げた。



その瞬間頭部に衝撃を覚えてうめき声を上げる。



あたしの頭部は美紀の足が乗せられ、踏みつけにされていたのだ。



「土下座っていうのは、額を床につけなきゃダメでしょう?」



美紀の言葉に他の3人が声を上げて笑う。



グッと奥歯を噛みしめ、涙をこらえる。



床に押し付けられた額が痛む。



「もうやめて!」



夢が泣きながら叫ぶ。



夢は関係ない。



今回はあたしが悪かったんだから。



そう言いたかったが、4人にとってはあたしも夢もターゲットで変わりない。



夢を庇うことで、余計にイジメられる可能性もあった。



「友達のために泣いてんの? 夢って優しいねぇ?」



美紀の興味がそれたおかげて、あたしの頭から足がどかされた。



ホッとしたのもつかの間、今度は夢が土下座を強いられる番だった。



「あ、あたしが失敗したせいでしょう!?」



夢の額が床につく寸前、思わず声を上げていた。



反論しない方が堅命だとわかっていたのに、つい……。



美紀があたしを睨みつけてくる。

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