あたしが作った最上の恐怖を召し上がれ
西羽咲 花月
第1話
夕暮れ時、天気が悪いようでいつもの教室内は薄暗かった。
「まじ、つかえねー」
あたしへ向けて唾を吐きかけるように言ったのはおなじクラスの口田靖(クチダ ヤスシ)。
床に倒れ込んでいたあたしはどうにか上半身だけ起こして「ごめんなさい」と、消え入りそうな声で言った。
靖は短い髪の毛をガシガシとかいてあたしを見下ろしている。
「で、でも靖子は悪くないよ」
震える声で言ったのは巻口夢(マキグチ ユメ)。
あたしの隣で同じように座り込み、青ざめた顔で靖を見ている。
いや、実際に怖いのは靖ではなかった。
その隣りの神田陸(カンダ リク)でもなければ、公森愛子(キミモリ アイコ)でもない。
一歩後ろであたしたちを見下ろしている河地美紀(カワチ ミキ)が怖かったのだ。
後のメンバーは美紀の機嫌を取っているだけだから、それほどでもない。
「はぁ? お前こいつのこと庇うのかよ」
靖が威勢よく言って夢を睨みつける。
夢は一瞬ひるんでうつむいてしまった。
「だって、机が離れてるのにカンニングさせろなんて、無理なこと言うから……」
夢は靖から視線を外して呟く。
6時間目の授業の時、数学の小テストが行われた。
それは事前に知らされていたことだったため、靖はあたしにカンイングさせろと言ってきていたのだ。
しかし、靖の机は教室の右最奥で、あたしの机は左の前方にある。
元々無理な話だった。
だから必死で断ったのだけれど、靖はそれを聞き入れず、授業は始まってしまった。
どうにかしてカンニングさせてあげなければなにをされるかわからない。
テスト中そんなことばかり考えていて、ほとんど問題に意識が向かなかった。
小さな紙に回答を書いて、他の生徒づてに靖に渡してもらおうか?
それくらいしか方法はない気がする。
けれど焦れば焦るほど数学の問題は頭の中からすり抜けていって、全然理解できなかった。
そして15分という回答時間はあっという間に過ぎて行ってしまったのだ。
「そこまで! 後ろから順番に集めて来い」
数学の先生の声が聞こえてきたとき、スッと血の気が引いて行った。
試験時間は終わってしまった。
あたしは靖の言うことをきくことができなかった。
解答できなかったことよりも、そっちのほうが恐ろしかった。
最奥の席である靖は解答用紙を集めて教卓までやってきた。
咄嗟に視線を逸らす。
しかし、逸らす寸前で靖と視線がぶつかった。
靖の人を射るような鋭い目に背中がゾクリと寒くなる。
今日はただじゃ帰れないかもしれない。
そんな予感がしていた。
そして今。
放課後になるとあたしと夢は靖、美紀、愛子、陸の4人に呼ばれて2年D組の教室に残ることになってしまったのだ。
他の生徒たちはさっさと帰ってしまい、グラウンドから部活動の音が聞こえてくるくらいだ。
誰かが忘れ物でも取りに戻ってこない限り、この教室にはあたしたち6人しかいない。
「まぁまぁそんなに怒らなくていいじゃん」
そう言ったのは意外にも美紀だった。
この4人の中ではリーダー的存在である美紀の言葉に靖がたじろいだのがわかった。
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