第8話 カッコウ


「お兄ちゃん、また、女の子だよー。いつから女子を手玉に取るジゴロに」


 妹が何か言っているけど。よく聞き取れない。


「ごめん、寝ちゃってるみたい」


「いいよ。気にしないで。少し見たら帰るから」


 パタン、とドアが閉まる音。

 椅子を引いて、誰かが座ってる。


「情けない。魔王のくせに。病原菌に負けるなんて。ーーって、妹の写真が机の上にあるのは、どうなの。ブラコンなのかシスコンなのか」


 そうだ。オレは魔王だ。

 世界の半分を掌握し、悠久の時を生き続けた無敗の王。魔族を統べる者。

 それにしても、肉体が重いな。こんなに人間とは弱いものとは。

 

 やめろよ、オレ。

 魔王ムーブはたくさんだ。


 寝込んでいろ、その間に、全ては終わっているのだから。


「あ、起きた。もしかして起こしちゃった」


「いや、かまわん。それよりーー」


 立ち上がる。

 そして、椅子に座っている羽鳥の顎を手で掴む。

 真正面から向かい合う形。目と目が近くで、交わされる。


「フィーナ。約束を果たそ…」


 魔王はそのまま倒れこんでいた。

 人間の身体で無理するから。ベッドにいろ。

 というか、人格を乗っ取るな。


「最悪。風邪にも負けて、魔王にも負けて——」


 そういいながらも、倒れ込んで、膝の上に頭を乗せるオレの頭を撫でる。

 

「ああ、あー、なんで、来ちゃったんだろう。北川さんに任せておけばよかったのに。ちょっとは、心配してるんだけど。あんまり、そういうのもキャラじゃないし」


 羽鳥はブツブツと文句を言いながら、なんとか俺を肩にかついで、ベッドへと戻す。


「ん、なにか、床に」


 何か蹴ったのか、羽鳥は、雑誌のようなものを拾い上げていた。


「あー、男の子だもんね。そういう本も持ってるよね。はい、没収っと。北川さんに見られなくて良かったね。これは、いずれ、脅し道具に使えそうだなぁ。看病来た甲斐があった」


「ま、ま……て」


「うわぁ、ピンクな本への執念すごっ。ごめんごめん、そこまで大事なら、返しとくって。ベッドの下に返納しとくね」


 羽鳥は、さっとベッドの下をのぞいて、入れ直す。


「げっ、これ、まさか、全部っ」


「ん、ごほっ、なわけあるか!」


「ごめんごめん、ただの雑誌だよね。カモフラージュは大事だなぁ。妹さんにバレないようにね。ということで、わたしは帰るね。元気だせ。あ、お見舞いに、北川さんのナイスショット写真、プレゼント。コンビニでプリントアウトしたできたてホヤホヤ」


 どう考えても、見舞いじゃなったかが。

 まぁいい。普通に心配されても、気持ち悪いし。

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前世の異世界の記憶が恥ずかしすぎるラブコメ 鳴川レナ @morimiya_kanade

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