第2.5話 黒くて、甘くて、苦い
「そっか。恋人じゃないんだ。まだ」
北川さん、意味深な言葉を付け足しておかないでください。人間の関係というのは、平行線で、そのままということがあるから。
「クラスメイトが困っていたら——」
「あんたはbotなの。緊張して、言葉でも抜けてる」
悪いか。
好きな子を前にすると、言葉が出ないぐらい普通だろう。全員、魔王みたいだと思うなよ。思春期の男は、もっと繊細なんだよ。
「あはは。さっきも、少し言い合っていたね。
クラスメイトが困っていたら助けてくれるなら、わたしも、ああいう目にあっていたら、助けてくれるのかな」
「もちろん」
北川だったら、即断即決、一目散で、助ける。そして、あのナンパたちの生き根を止めて——いやいや、それはやりすぎだ。静まれ、俺の中の魔王。
「あ、でも、抱きつくのはナシだよ。恋人未満ぐらいじゃないと」
口元で、指でばつ印を作る北川。
未満だけだと、ほぼ全ての人間を包含してしまいそうだが。
「あれは、羽鳥が抱きついてきただけで、俺は——」
「転んだだけ。転んだだけ、転んだだけ——」
何度も言えば、真実になるとでも思っていそうだな。そういうことに一応しておいてもいいけど。思いっきり、ギュッとされたはずなんだが。
なにもないところで転ぶドジっ子っということにしておいてもいい。感謝しろよ。
「うーん、でも、なにか、ご褒美はあった方がいいのかな」
「いやいや、いらないって、別に」
「良いことしたら、良いことないと、嫌にならない」
うん、その笑顔で十分、良いことだ。というか、北川と外で話しているということで、十二分。
北川は、羽鳥の方をチラッと見る。
それから——
「これあげるね。さっき、そこで、買ったチョコ。バレンタインには早過ぎだけどね。クラスメイトを助ける勇気を評して。
それじゃね、わたし、用事あるから。バイバイ、お邪魔したね」
丸いチョコがいくつか入った箱。カカオ80パーセント。
北川は、くるっとターンして、行ってしまった。
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