第2話 セーブ・ザ・ブレイブ

 「ちょっと、いい加減にしてよ。迷惑だから」


 魔王が宿って一ヶ月半。

 街中を歩いていると、嫌がっている女の人の声が聞こえた。

 その声の方を向くと、男三人に囲まれている少女。うちの高校の制服。見知ったクラスメイトの一人。元勇者様。

 でも、助ける義理はない。

 俺たちは、互いに関わらないと決めているのだから。


「ビビらせんなよ、可哀想だろ」

「ちょっと、遊ぶだけだよ。金も、こっちが持つって」


 ダンッ。

 気づくと、男たちと少女の間に入っていた。

 ちょっと待て、オレの身体なにを勝手に――。


「嫌がっているんだ。それぐらい分かれ」

「アアァ、お前、誰だよっ」


 おおっ、怖っ。

 はい。ごめんなさい。

 ただのクラスメイトです、と言うはずが……


「こいつは、オレの女だ」


 ギロリっ。

 男たちが一歩、後ずさる


 なんだ、この半端のない圧力。オレが出しているんだよな。

 ガラの悪いやつらは、すぐに舌打ちをして去っていった。

 張り合いなさすぎでは。まぁ、所詮、ナンパなんだが。


 はぁ、関わらないって決めたはずなのにな。オレは、ゆっくりと、振り返る。


「・・・・・・」

「だんまりかよ」


 なんだ、実は怖かったのか。あれだけ威勢よく言い返していたのに。

 耳まで赤い。


「だいじょ・・・・・・」

「ちょ、近寄ってこないで。今、だめ・・・・・・、だか――」


 オレが手を伸ばしかけた瞬間――。

 抱きしめられていた。


「はっ!?おまえ、なにしてんの」

「ち、ちがうから。体が勝手に」


 くっ。よせ。止まれ、俺の両腕。抱きしめ返そうとするな。俺は、ほかに好きな子がいるんだ。流されたりしない。意思を固く持つんだ。


「は、離れろ。バカっ。見られるだろ。クラスの誰かに、こんなところ見られたら……」


「だ、だいたい、あんたが、助けるのが悪いんでしょ。キュンとするでしょ。いや、わたしはしてないんだけど。わたしの中のフィーナが」


 そう言って、なんとか離れる。しっかり腕を組んで、羽鳥は、なにもなかったかのように、そっぽを向く。


「クラスメイトが、困っていたから助けたんだ。悪いか」


「なによ、どうせ、魔王の精神に、動かされたんでしょ。互いに関わらない決まりだったはずよ。善人ぶって、魔王のくせに。だいたい、10代後半の勇者に、あんなことして、ほんとう、夜の魔王ねっ」


「知るかっ。魔王が勝手にしたことだ。だいたい、10代の少女に、世界の命運たくすようなやつらがおかしんだよ。魔王だって、びっくりして、優しく介抱してしまうだろう。なにかの策略かと思ってたぞ」


 とか言い合って言たら、俺は、気づいた。

 向こうから俺たちのことを見ている。

 北川きたがわ瀬那せなに。クラスで一番、完璧な美少女。優しさの体現者。

 

 あ、向こうも、俺が気づいたことが分かったようだ。

 困った顔をして、こちらに近寄ってくる。


「お、お邪魔かなぁ、と思うんだけど」


「「いや、全然っ」」


 ハモるな。ハモると、なんか実は仲がいいようにっ——その顔を見るに、考えていることは同じようだな。


「よかった。それにしても、覇島くん、勇気あるんだね」


「クラスメイトが困っていたら、助けるのが当たり前だろう」


 隣で、羽鳥が、めっちゃ睨んできてるけど。おい、それが、一応は助けてやったやつにする顔なのか。


「あれ、恋人じゃないの。抱きついてたよね」


「あははっ」

「はっはっは」


「「そんなわけない」」

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