前世の異世界の記憶が恥ずかしすぎるラブコメ
鳴川レナ
第1話 蘇った記憶
「前世の記憶が、やばい。俺は、あんなにカッコつけていたのか」
「わたし、なんて言葉を。ハズい。ハズすぎよ。前世の記憶なんてなければ良いのに。もう、やめて。現代っ子のわたしには、とてもじゃないけど耐えられない」
屋上の風がやけに冷たい。
俺ともう一人は、フェンスの先を遠い目で見ていた。
前世、いや、前世と言っても異世界での前世のことだ。俺、
自分で言うのもあれだが、美形だった。超強かった。そして、いろいろやっちまってた。かっこつけすぎてた。自重しろ、オレ。
それにしても、こういうことか、やってくれたな。
フラッシュバックが、辛い。
「オレの子猫ちゃん」
「だぁ、だめぇ」
なにが、子猫ちゃんだ。
膝にのせて、くすぐったりして――。
ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――!!
バカなのか、オレは。重度の異常者としか思えん。イケメンだから許されるのか。
というか、そのウルトラ美形力を今世にせめて引き継げよ。こちらとら、魔力も何もない一般人なんだよ。こんな黒歴史を一般人の精神にたれ流しこんでんじゃねぇぇぇええええええええ!!!!!
チラリっ。
「・・・・・・・・・・・・」
耳まで真っ赤だよ。目の前に元勇者、
どういう恋愛観で生きてたんだろう。現代を生きるデジタルネイティブな人間にとっては、地獄でしかないよ。
ザ・黒歴史。
戦っていたくせに、なに互いに恋に落ちちゃってるの。ダメだろ。ラブロマンスしている仲じゃないだろう。そういうのは、ライトノベルの中の世界でやれ。
両想い甘々ラブラブせずに、頼むからバトルファンタジーを展開してくれよ。
三年間の激闘?
ほとんどイチャイチャしてただけだ。
ガチャとフェンスの網を握りしめる音。
「あ、あなたを殺して、わ、わたしも死ぬわ」
「ま、待て。早まるなっ!」
気持ちは分かる。気持ちは痛いほど——、痛々しいほど分かる。
こう、心の中に穴がぽっかりあくのと、逆で、一気に大量のラブで埋められてしまったような。愛に押し潰れる感触。
恋は盲目というけども。
ああ、他人の恋愛事情を全て知ってしまうと、こういう現象がおこるんだなぁ。
全然知りたくなかったぁ。
「落ち着け。すべて前世のことだ」
「そ、、、そうよね。今のわたしたちには、これっぽっちも、関係ないこと、はぁはぁ」
二人で言い聞かせる、と当時に。
ある約束が浮かぶ。
『来世、生まれ変わって、子をなそう』
『うん、絶対』
「い、言ってないぞ」
「わ、わたしも、答えてないから」
魔族と人間では、子供は持てない世界だったし。当然、そういったこともしなかった。
同じ人型だから、種族の壁を越えることはできたけど、相手は勇者。こちらが傷つけることは、ほとんど不可能。聖なる加護に守られているから。まして、えっ・・・なことをすれば、さすがに勇者の聖なる力でこっちが蒸発してしまう。
「なんかね、心臓がドキドキするんだけど」
「つ、吊り橋効果だ。気のせいだ。気のせい」
目の錯覚だ。
こいつが、世界で一番可愛いだなんて思ってない。オレは、同じクラスの他の子のことが好きなんだ。こんなクールなふりしたガサツなだけの女子のことなんて、なんとも思っていない。
お断りだ。
清楚で可憐で、そしておしとやか、これが、現代の三種の神器だ。
ツンデレヒロインなんて――、いや、デレてはないけど。デレるなよ、絶対だぞ。
「ありえない。ありえない。ありえない。ありえない――」
ありえない、とか
お前の横にいる人間は、実態があるんだからな。
ちょっと嫌がらせしてやろうか。
「おまえといられる、ただそれだけの時間が、どうして、オレには、こうも愛おしく、ひとしお大事に感じられるのだろう。ああ、この触れたら壊れそうな華奢にみえる身体のどこに――――」
「や、やめなさーーーーーーーーいっ」
鉄拳が飛んできた。まぁ、所詮は、ただの人間の拳。全く、痛くもかゆくも――。
「いっっってぇぇええええええっっっ!!」
魔王ムーブしすぎた。痛すぎるだろう。手加減というものを知らないのか、暴力ヒロインがっ。
もっと、魔王のときに、していたように、優しくできないのか。いや、結構、キツめなのをもらっていたか。
「最低。最低。サイ、ッテー――ッ」
「ちょっ、やめっ、足を踏もうとするな。目覚めたら、どうしてくれる」
「一生、眠ってろ。クズ、変態、魔王。ーーとにかく、絶っっっ対ッに、付き合わないし、カップルにも夫婦にもならないから。そこんとこ、よろしく!!」
「こっちだって願い下げだ。だいたい、前世に引きずられて恋愛なんてしてられるか。この人生は俺のものだからな。好きなように楽しむさ」
二人同時に、そっぽを向いた。
でも——。
そうは、言ったものの、ヤバいぞ、この魔王の前世。俺の前世が、キシみを上げて追い立ててきている。理性が崩壊しそうだ。
今すぐにも、抱きしめたくなる。ああ、だが、負けないぞ。負けてたまるか。俺は、勇者の色香に屈しない。前世とは違うんだ。オレはオレだ。
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