第3話 リビドーよ、さらば


 ひどい誤解を受けた。

 北川が離れて行ったあと——。


「あのさ、考えたんだけど、これ、少しは発散させておいた方がいいんじゃない」と、羽鳥が仕方なしといった感じで、提案した。


 発散?


「心が苦しいのよ。それに、フィーナの想いも。

少しぐらい、まぁ、我慢して、すこぶる我慢に我慢を重ねてみて——何かしておいた方が、結果としては楽なんじゃないかって。

 ほら、障害が多いほど盛り上がるって言うし。ガス抜きよガス抜き」


 早口で、ペラペラと喋る羽鳥。流れるように立板に水。

 フィーナというのが、勇者の名前なわけだが。

 受け入れすぎでは。フィーナの記憶と、まさか意気投合してないよな。

 ドS彼氏もありかも、みたいな発想は、妄想と異世界のみでやってくれよ。現実は、そんな男を許容してはいないんだ。魔王様はいないんだ。


「で、具体的には?」


「さっきみたいにくっつく的な」


 それはダメだ。俺の理性が勝るとも劣らない何かに、ぶっ壊される危険がある。勇者の方は、それで満足してくれるかもしれないが。

 こっちは生殺し感。


「それは、羽鳥の安全を保証できない」


「あんた、思春期真っ盛りなのね」


 最悪な解釈をされた。

 俺は問題じゃない。俺の中の魔王が、そのまま連れ込んでいきそうなんだ。俺はお前になんか一ミリも心動かされないが。


「もっと危険性の少ないところからいこう」


「それもそうね。わたしも、くっつくとか言ったけど、今思うと、ないわ。それはない。お風呂に三回入ってくれて、そうね、目隠しでもしてくれたら、ギリギリ」


「俺がお前の中で、どれだけヤバやつと思われているか分かるな」


「目がエロいのよ。胸とか見てるのバレてるからね」


「どこにあるんだ。そのうっすい胸を、見られてると思っているなら、小学生の胸にだって、目がいくぞ」


「ひっ。やっぱりロリコン」


 違わい。そういう意味じゃない。

 自分の身体を抱きしめているところ悪いが、それだけ寄せても、カケラも盛り上がってない。

 そういえば、勇者も、薄かったなぁ。前世から無駄なものを引き継いで——。


 バチンっ。

 頬が痛いぞ。


「あ、今のは、勇者とわたしの意見の一致だわ」


 とにかく、仕切り直そう。

 言い争っていても始まらない。

 二人の仲を邪魔しようと、関わらないでいようとすれば、会った瞬間の反動で、一気に、R18なディープな関わりをしかねない。レディースコミックも真っ青だ。急展開乙。

 それよりも。

 段階的に調整して、上手い具合に、ラブコメのように一歩進んで2歩下がるというふうにしたほうがいいだろう。愛なんて三年で冷めるらしいし。冷めろ、冷めるんだ。


「よし、2週間に一回はデートしよう」


「デート? 家とかは無理だからね。近場も」


「分かってるって。知り合いがいそうにないところに、ただ出かけるだけだ」


 ただのお出かけ。

 それをデートと呼ぶ。

 呼び方って大事だ。


「うまくいくの」


「やってみないと分からないだろう」


「はいはい。一応は、付き合ってあげる。というか、この100年の恋を冷ます方法ないの。想いが重い」


「それも探さないとな。騙し騙しやっている間に」

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