レイブ一派・第2話
「おい待て、待ってくれ! 魔物の肉が毒だなんてことも知らない一派に俺っちは入っちまったのか?」
「そ、そんなアーチさん。そんな探索者、駆け出しでもなければいるわけ……」
アーチとリリーが顔を見合わせる。
魔物の肉に含まれる魔素は人にとって有害だ。食べてしまえば運が良くても数日寝込み、運が悪ければ即死。それは探索者の共通認識だった。
「んなわけないだろ。俺達は今までも魔物の肉を食ってきたんだぜ」
ソドスはアーチの言葉を鼻で笑う。
その顔は、嘘を言っているようには見えなかった。
「おいおい、そんなわけ……。いや、待てよ? 俺っちの前に抜けた戦職ってのは」
アーチはふとある可能性に気がつき、確かめるようにレイブに振り返る。
その視線を受けてレイブは小さく頷いた。
「あぁ、予想の通りだとは思うが片方は調理師だ。もう一人は賢者だな」
「……なるほど、そういうことか。俺っちは、調理師に見捨てられた一派にまんまと入っちまったのか!」
アーチは頭を抱えてソドスを睨む。
冷静になればおかしな話だったのだ。破竹の勢いであったレイブ一派を抜ける人なんているはずがない。
いたとすればそれは相当な邪魔者か、はたまた一つ頭抜けて優秀な者かである。
「おいおい調理師がなんだってんだ。あいつは何一つ役に立たなかったぜ?」
「役に立たない? そんなわけないだろ! 魔物を食べられるようにできるだけでどれだけ魔境の探索が楽になるか! しかも調理師の料理と言えば大金を払ってでも買うべき切り札だ! 俺っちだって、買ってある!」
冒険鞄からアーチは保存食として調理された魔物の肉を取り出してソドス達に見せつけた。
「もちろんリリーも買ってますよー」
リリーの鞄からも魔物の干し肉が取り出される。
そこまでを見て、ようやくソドスは異常に気がつき始めた。
「待てよ? もし、魔物の肉が食えないんだとしたら……。深く潜る数日間に俺達は何を食うんだ?」
「携帯食糧を大量に持ちこむんだ。賢者の保存箱技能やそれと同様の能力を持つ魔宝を使ってな!」
続いてアーチが取り出したのは運搬袋と呼ばれる袋だった。
魔宝と呼ばれる魔境で発見される特殊な能力を持った道具達。その中でも比較的多く発見され、その利便性から市場にも頻繁に出回っているのが運搬袋だ。
その能力は、規定の容量までは物を入れても重くなることもなく膨らむこともないというもの。物を持ち運ぶのに非常に便利な袋だった。
「けど、そんな物買う金は……」
「初めはないだろうな。だから初心者は浅い層で金を稼ぐんだ」
アーチは吐き捨てるように言い放ち、魔物の肉と運搬袋を冒険鞄に入れなおした。
より高みを目指して入ったレイブ一派で初心者講習のようなことをすることになるとは思ってもいなかったアーチは、深く息を吐き出して心を落ち着かせる。
「はぁ、悪いなレイブさん。熱くなりすぎた」
「いや、いい。言ってることは正しいからな」
レイブは小さく頷くと、残りの携帯食糧を口に放りこんだ。その反応にソドス達は驚く。まるでアーチが話したことをレイブは知っていたかのような反応だったからだ。
「待ってくれ、レイブさん。知ってたのか? 調理師のことも、携帯食糧のことも、全部?」
「当然だろう。教習所で習わなかったのか? 調理師に関してはそもそも人が少ないから詳しいことはシェリフを見るまで知らなかったがな」
「じゃあどうしてシェリフを追放なんか……」
そこまで言ったところでソドスは言葉を止めた。
レイブが今までになく鋭い瞳でソドスを睨んでいたのだ。
「追放したのはソドス達だろう。俺が喜んでシェリフを見送ったとでも思ってたのか?」
「それは……」
不機嫌そうなレイブの声音に気圧されてソドスはそれ以上何も言えなくなった。
そうしてソドス達が携帯食糧も持っていないことが判明したことで、その日は五層にいる魔物の素材集めで探索は終わりを迎える。
賢者もなくしたレイブ一派は持ち帰れる物も少なく、今までに比べて遥かに少ない戦果で彼らは帰ることになったのだ。
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