第4話

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「今日からいきなり魔境探索するのかな?」


「どうだろ。わたしはそれでもいい、けど」


 ナリアからの勧誘を受けた翌日のこと。探索者協会を経由してシェリフとサニャは最近生まれた魔境の前に呼び出されていた。


 仮参加した直後に魔境への呼び出しとなれば、探索をして実力を見るというのが自然な流れだ。


「僕は探索だとありがたいな。お金には困ってないけど、魔境に行かない分だけ目標が遠のくからね」


「わたしも、戦わないと……ね」


 他愛もない会話をしながらシェリフとサニャはナリアの到着を待つ。約束の時間よりも少し早めに二人は到着していたのだ。


 そうしてしばらくした頃。街と魔境を繋ぐ道に現れたのは、ナリアと見知らぬ美女だった。


「おはよー! 今日は来てくれてありがとね」


 シェリフ達に気がついたナリアがぶんぶんと手を振り突然に駆け出す。振る手と反対の手は美女を掴んでいた。


 ナリアに手を引かれた美女は前に倒れそうになりながら合わせて走ると、あっという間にシェリフ達の目の前まで辿り着く。


 勢いよく駆けたにも関わらず元気に笑うナリアに対し、美女はズレた眼鏡の位置を戻しながらに息を少し荒げていた。


「早速だけど、今日は魔境探索するよ! 参加するのは十二夜灯の長、ナリア! そしてー」


 ちらとナリアが美女へと視線を向ける。


 その合間に息を整えていた美女は、ナリアからの視線を受けて困ったように微笑むとシェリフ達へと向き直った。


「十二夜灯の副長、リーヒアです。よろしくお願いしますね。シェリフさん、サニャさん」


 リーヒアが流れるようにお辞儀をする。さらりと緑の長髪が揺れた。


「森人族、珍しい……」


 サニャがぼそりとシェリフの背後で呟く。


 よく見れば、リーヒアの髪には細い蔓が髪飾りのように混じって巻きつけられていた。そして、髪の隙間からちらと見える少しだけ尖った耳。たしかにリーヒアは森人族だった。


「えぇ、森人族です。よくわかりましたね?」


「僕らの幼馴染に森人が一人いるんです。なので特徴も知ってまして」


「同族の方が……! 私が言うのも変ですが、街中で森人がいるのは珍しいですね」


 種族名の通り、森に住む人である森人族は街に出ることさえ少ない種族だ。


 その希少性と普人族との差異の少なさから存在さえ知らない人もいる森人族を見るのは、幼馴染のシーアを除いてサニャとシェリフも初めてだった。


「僕達の故郷は幼い頃に魔境に変わってしまって。だから、シーアの住んでいた森もなくなってしまったんですよ」


「故郷が魔境に……。私やナリアと同じですね」


「そう、なの……?」


 リーヒアの言葉にサニャが驚きの声を漏らしてリーヒアとナリアを見つめた。


 魔境の発生は唐突だが、昔から残る街や集落が魔境に飲まれることはほとんどない。


 知識人の集まりである賢者会の研究によれば、魔境の生まれる原因ともなる魔素は集まりやすい場所が存在するとされている。


 その研究を信じるならば、昔から残る街や集落は魔素の集まらない土地だからこそ残っていることになるのだ。そのため、例外を除きそれらの土地は今後も魔境になることはないと考えられている。


「うん、そうだよ。あたしもリーヒアも魔境になった故郷から必死に逃げてきたんだ。その後も色々あって大変だったけど、今はこうして元気!」


 にこりと花の咲くような笑みを浮かべてナリアは無い胸を張る。その横でリーヒアは真面目な表情で眼鏡の位置を直すと、少し悲しそうな目をした。


「同じような被害を受ける人達は今も少なくありません。それも全て、魔境のせいです」


「そう! だから魔境を全て制覇しようってゆーのがあたし達の目標なんだ!」


 ナリアは魔境を見つめて屈託のない笑顔を浮かべる。


 辛い経験をしてきたはずとは思えないその表情に、シェリフは恐れにも近い尊敬を抱いた。


 ただ魔物を恐れ魔境を恨むシェリフとは違う、達観した向き合い方が羨ましかったのだ。


「というわけで、善は急げ! 早速この魔境に行ってみよー!」


 元気な声に合わせてナリアの手がシェリフとサニャを掴む。リーヒアもまたナリアに手を添えていた。


「特に打ち合わせもなしですか!」


 手を引かれて驚くシェリフに、輝く翡翠の瞳でナリアは振り返る。


「大丈夫! あたしがいるから!」


 そのままトンッと跳ねたナリアの身体が、辺りに広がる魔境との境界線に触れる。刹那、四人の身体は吸いこまれるような感覚に合わせて魔境の中へと転移していた。

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