第69話
ガツンッ! と、確かな手ごたえがあり、相手がその場に崩れ落ちる。
しかし、死んではいなかった。
頭から血を流しながら顔を上げる先生。
それは自分たちの担任の先生だった。
一瞬躊躇しそうになるが2発目のハンマーを振り下ろした。
それは先生の顔面に当たり、鼻がつぶれる感触があった。
そしてもう1度振り上げる。
もう二度とあたしたちを追いかけられないようにするために。
「ごめんなさい」
小さな声でそう言い、あたしはまたハンマーを振り下ろしたのだった。
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☆☆☆
ついにこの手で人を殺してしまった。
屋上で先生を殺したあたしと聡介は、2階の相談室に逃げ込んで身を隠していた。
自分の両手を見つめると月明かりに照らされて先生の血で染まっているのがわかった。
3度も殴りつけてしまった。
先生の肉がつぶれる感触を思い出し、両手をギュッと握り締める。
「大丈夫か?」
聡介が気遣って抱きしめてくれるけれど、朝まで体の震えはとまらなかったのだった。
☆☆☆
そして、6日目の朝が来た。
先生の遺体が発見されたことで、朝からパトカーのサイレンが鳴り響き、騒がしい。
幸いにも今日は土曜日で生徒たちは休みの日だった。
出勤してきている先生たちも、あたしたちを相手にするような暇はなく駆け回っている。
「商品が殺されても知らん顔してるくせに」
教室の外を駆け回っている足音にあたしは舌打ちをする。
すると聡介はあたしの手を握り締めてきた。
「大丈夫。あと少しで終わりだから」
やさしい声でそう言われると、なんだか急に眠気が襲ってきた。
「眠っていいよ。俺が見張ってるから」
そう言われて、あたしは素直に目を閉じたのだった。
それから何時間くらい経過しただろうか?
スマホのバイブ音で目を覚ました。
ポケットから取り出して確認してみると、何件ものメッセージや電話が入ってきているのがわかった。
そのどれもが見知らぬ人たちからのものだ。
だけど1件だけ、ついさっき届いたメッセージに目が奪われた。
「花子からだ!」
あたしは聡介に画面を見せた。
「本当だ、生きてたんだな」
聡介の表情がパッと明るくなる。
《花子:今、3階の空き教室にいる》
そのメッセージに目を見交わせた。
最初の頃逃げ込んでいたあの空き教室のことで間違いなさそうだ。
「どうする? こっちも居場所を伝えてみる?」
聞くと、聡介は難しそうに眉根を寄せた。
「そのメッセージが本物かどうかわからない。こっちから花子に会いに行ったほうが安全じゃないか?」
「それじゃ、今から移動する?」
「そうだな。空き教室ならここから近い」
そう言ったものの、相談室の外からはまだ人の足音が聞こえてきているから、すぐに出て行くことはできなさそうだ。
警察や先生たちはあたしたちを捜しているのだろうから。
「今度は聡介が眠ればいいよ。あたしが見張ってるから」
「いいのか?」
「もちろん」
あたしは大きくうなづく。
今は6日目の午前中だ。
7日目の夜中、12時が来るまであと少し。
今はしっかりと休息をとって、終わりのときを迎えたかった……。
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