第70話

☆☆☆


それから2時間ほど眠った聡介はスッキリとした表情で目を覚ました。



その頃には廊下の喧騒は掻き消えていて、とても静かになっていた。



「今なら行けるかもしれない」



あたしはそう言い、そっと相談室のドアを開いた。



廊下を確認してみるが、そこには誰もいなかった。



チャンスだ!



あたしは素早く相談室を出て階段へと向かった。



聡介もそれについてくる。



足の調子はすっかりよくなったみたいだ。



階段の上部に誰もいないことを確認し、足音を殺してあがっていく。



先生も警察の人間ももう撤収したのか、学校内は不気味なくらいに静かだった。



そして階段を上がりきったときだった。



空き教室へと視線を向けた瞬間、屋上へ続く階段から警官の制服を着た男が降りてきたのだ。



ヤバイ!!



咄嗟に階段を駆け下りる。



警官はこちらを見ていなかったけれど、もしかしたら視界に入っていたかもしれない。



走りながら振り返り、誰も追いかけてこないことを確認する。



しかし足は緩めずに2階のトイレへと駆け込んだ。



聡介が遅れてついてくる。



「誰かいたのか?」



2人で個室に逃げ込んで鍵をかけたとき、聡介が息を切らしてそう聞いてきた。



「警官がいた。まだ屋上を見張ってるみたい」



「そっか。じゃあ3階には近づけないんだな」



あたしはうなづき、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。



一気に走ったせいでまた汗が噴出してきていた。



「たぶん見られてないと思うけど、今日は動き回らないほうがいいのかも」



むやみに動いて捕まってしまえばすべて終わりだ。



せっかくここまで逃げ切ったのに、そんなことにはなりたくなかった。



あたしはもう一度スマホを確認した。



花子からのメッセージは追加で送られてきていない。



これが本物のメッセージなら今でも待っていることだろう。



あたしはグッとスマホを握り締めた。



花子と合流したいという気持ちをグッと押し込める。



花子だっていつ捕まるのかわからない状況だ。



きっと、空き教室で待っていてくれているはずだ。



あたしはそう信じるしかなかったのだった。

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