第54話~恵美サイド~

早く静かにして!



わからなくて混乱していたとき、花子に口をふさがれてそれが自分の悲鳴だったと気がついた。



どうにか声を押し殺し、目の前の光景を見つめる。



「やっぱり、殺されたんだ」



花子が悔しそうに歯軋りをする。



なんで?



だって、舞は彼氏と会ってきたんだよね?



好き同士だから付き合ってたんだよね?



グルグルと無駄な思考回路が回り続ける。



そうしている間に大志が図書室の窓を開けていた。



雨の前なのか、生ぬるい風が吹き込んできて頬をなでた。



「予定通り、死体を捨てるぞ」



大志は舞の体を抱え上げようとする。



しかし、力を失った人間は重たくてうまくいかない。



「おい、手伝え! そのためにここに来たんだろ!」



言われてハッと我に返った。



そうだ。



死体を放置してはおけない。



あたしはグッと奥歯をかみ締めて立ち上がり、舞の右足を持ち上げた。



左足を花子が持ち、大志は肩を持つ。



そのまま窓辺へと運んで、一気に外へと落下させた。



舞の体はコンクリートに打ち付けられ、グシャッと嫌な音を立ててつぶれた。



舞の血でぬれたあたしは呆然としてそれを見つめていたのだった。


☆☆☆


それから狩の時間まで、どうやって過ごしたのかあまり覚えていなかった。



部室棟まで移動したことは覚えているから、またそこで長い時間を過ごしたのだろう。



狩の時間が開始されてからふと我に返ったあたしは両手を見つめた。



まだ舞の血がこびりついている。



トイレの個室から出て手を洗っていると舞の死に顔がよみがえってきた。



穏やかな表情だった。



彼氏に会えて本当に嬉しかったのかもしれない。



だけどその彼氏は武器を持っていた。



舞を殺すための武器だ……。



考えると胸が痛くてその場に座り込んでしまいそうになった。



蓄積した心の澱があたしの体を覆いつくしてしまいそうになっている。



でも……舞が殺されたことである閃きを感じていた。



あたしたちも武器を持てばいいんじゃないだろうかと。



今まであたしたちは必死に逃げるだけで、武器を手にしたことはなかった。



あたしたちは商品だからそんなこと許されないと最初から思い込んでいたのだ。



でも、考えてみれば聡介が怪我をしたのはあたしを助けるためだった。



その時、普通の生徒たちに攻撃を加えているのだ。

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