第55話~恵美サイド~
「あたしたちも、攻撃できる?」
大志や聡介のように強くないからもちろん素手じゃ無理だ。
でも、武器が容認されていたら自体は変わってくる。
あたしは鏡の中の自分をジッと見つめてゴクリと唾を飲み込んだ。
そして木工教室の中にはたくさんの工具が置かれていたことを思い出した。
ここから木工教室まではかなり距離がある。
でも、行ってみる価値はある。
「大丈夫。あたしならやれる!」
あたしは鏡の中の自分を叱咤して、トイレから出たのだった。
☆☆☆
部室棟の渡り廊下を渡り切り、本館の廊下を確認する。
今日は天気が悪くて月明かりも差し込んでいない。
周囲は想像以上に薄暗く、気味が悪かった。
あまり視界が聞かない中、聴覚だけを頼りにゆっくりと前進する。
自分の足音と緊張した呼吸音がやけに大きく廊下に響き渡り、背中にベットリとした汗が流れていく。
誰とも遭遇せずに2階へと降りる階段にたどり着いた。
そっと下を確認し、人影がないのを見て降りていく。
2階まで降りてきたとき教室からガタンッと物音が聞こえてきて身を縮こめた。
「なんだよ誰もいねぇじゃん! どこに隠れてんだよ!」
怒号に続いて椅子や机を蹴り飛ばす音。
その声には聞き覚えがないから、1年生の受け持ちじゃない先生なんだろう。
あたしは気づかれないよう息を殺して再び階段を折り始めた。
階段で鉢合わせすると逃げ道がない。
階段を駆け上がって逃げるほどの体力もなかった。
どうにか1階まで降りてきて、また廊下を確認する。
1階はとても静かだった。
保健室の前を通りかかったとき聡介のことが気になったが、一旦通り過ぎてそのまま木工教室へと足を進めた。
ドアの開閉音が響かないよう、慎重に木製のドアを開ける。
教室の中は廊下よりも更に暗くてほとんどなにも見えなかった。
そっと教室内に入り、ドアを閉める。
その場に座り込んで目が慣れるのを待った。
準備室の方へ視線を向けてみるが、今日は誰もいないようでホッとした。
しばらくして目が慣れてくると、あたしは教室奥の棚へ向かった。
木製の棚で、工具が収められているのだ。
目を細めて確認してみるとのこぎりやハンマー、釘など様々なものが収納されている。
ハンマーに手を伸ばそうとしたとき、触れる寸前で動きを止めた。
もし武器を持つことが許されていなければ、これに触れた瞬間警告音が鳴り始めるかもしれない。
安易に触れることができなくて、伸ばした手を引っ込めた。
武器に触れることができるかどうかわからなくても、ここにいればいざというときに攻撃することはできる。
たとえ警告音が鳴っても、それを無視してハンマーを握り締めればいい。
あたしはそう決めて息を潜めたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます