第49話~舞サイド~

竜也の胸に飛び込む寸前、竜也が右手を背中に回した。



そして何かを取り出したところまでは見えた。



でもそれがなんだったのか確認できなかった。



次の瞬間にはあたしは竜矢の腕の中にいたからだ。



「舞。ありがとう」



竜也が左手であたしの頭を優しくなでる。



ずっと、永遠にこうされていたい気分だった。



でも、自分の腹部に違和感があってその幸せな時間も長くは続かなかった。



あたしは違和感の正体を探るためにそっと竜也から離れた。



そのとき、竜也の右手があたしの腹部にあてがわれていることに気がついた。



そしてその手は赤く染まっている。



「え……?」



首をかしげた瞬間、なぜか足から力が抜けていって、その場に膝をついていた。



そんなあたしを見下ろしている竜也。



「おい、撮れたか?」



竜也は誰もいない空間へ向けて声をかけた。



すると机の下に隠れていた3人の男子生徒が出てきたのだ。



その中の1人はカメラを構えている。



「バッチリ!」



「よし、これでリアルなシーンができたな」



「こんなことよく考えたな竜也!」



3人とも興奮した声を上げている。



リアルなシーンってなに?



そう質問したかったけれど、声がでなかった。



ジワジワと溢れ出している血液が、あたしから体温を奪っていく。



「ほんと、舞が商品になってくれて助かったよ。おかげで最高の映画が撮れそうだ」



竜也がしゃがみこみ、あたしの頭をなでながら言った。



最高の……映画?


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