第48話~舞サイド~

朝目が覚めたとき右頬に違和感があった。



触れてみると頬の内側が硬くて、いつもと違うことがわかった。



それから鏡で確認してみると、商品番号が書かれていたんだ。



商品になった人間はいつも通りの生活を送らないといけないと、そのときあたしはすでに知っていた。



人権剥奪期間という法律について少し勉強したことがあったから。



それから夢を見ているような気分で学校に登校して、自分以外に5人も商品になった生徒がいるとわかった。



学校から出られないとわかったとき、ここで死んでしまうのかもしれないと考えた。



あたしみたいな目立たないキャラ、1日目で死んでしまうかも。



そう思っていたけれど、どうにか1日目を生き残ることができた。



夜中の狩の時間では担任の先生に襲われて危なかったけれど、先生が持っていたナイフが小さな果物ナイフだったから、切り傷程度で済んだ。



もともと殺すことを目的としていなかったのかもしれない。



それでも、あんなに優しかった先生に傷つけられたとき、自分の心の中でなにかが崩れ落ちていくのを感じた。



信頼とか、感謝とか、友情とか、尊敬とか。



そういう人とつながる上で大事な感情がすべて薄っぺらいものに感じられた。



どうにか狩の時間を逃げ切って保健室に戻ってからも、あたしの心は空っぽだった。



ここに集まっている商品たちだっていつ裏切るかわからない。



現に一は恵美を裏切って生贄にした。



結局一は死んでしまったけれど、信用してしまった恵美も悪かったのだ。



商品になったら誰のことも信用しちゃいけない。



信用したら負けだ。



あたしは最後まで生き残りたい!



そんな気持ちが強くなった。



2日目の朝を迎えたことで、自分は生き残れるんじゃないかと希望が見えてきた。



でも……そんなあたしにも信用したい人物がいた。



みんなが止めるのを聞かずに、あたしは保健室から逃げ出した。



そして真っ直ぐ図書室へ向かう。



そこに行けば中学時代から付き合っていた彼氏に会うことができる。



竜也とあたしは付き合ってもう1年になる。



高校の受験勉強も一緒にがんばったし、一緒に希望校に入学することができた。



どんなときでも二人三脚でがんばってきた。



だから、竜也があたしを裏切るなんてありえない。



そう、思っていた……。



図書室のドアを大きく開くと、目の前に竜也が立っていた。



背が高く、髪の毛をツンツンに立てているその姿はいつも通りだ。



その姿を見た瞬間昨日からの疲れが一気に吹き飛んでしまった。



自分の顔に自然と笑顔が広がるのがわかる。



「舞」



名前を呼ばれて泣きそうになった。



竜也が両手を広げて「おいで」と言った。



それだけで胸はいっぱいになる。



商品になって傷ついた心が癒されていく。



「竜也!」



あたしは名前を呼んで駆け出した。



すぐ近くに竜也がいる。



竜也に触れることができる。



当たり前だった日常がなくなった今、それがとてもうれしかった。

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