第44話

ロッカーの中、立ったままでウトウトしていると聡介の声が聞こえてきた。



「朝日だ!」



その声にハッと目が覚めてロッカーから出た。



聡介が窓の前に立っていてカーテンが開けられている。



外から朝日が差し込んできて目を細めた。



「本当だ」



呟いたとき、アナウンスが流れ始めた。



《朝になりました。狩の時間は終了です。狩人の先生方は速やかに帰宅してください》



それを合図にあたしたちの長い夜が明けたことを理解した。



そしてまた数時間後には生徒たちが来る。



その前にベッドに横になり、あたしは泥のような眠りについたのだった。


☆☆☆


「恵美、そろそろ起きろよ」



そう声をかけられてあたしははじかれたように上半身を起こした。



一瞬保健室の壁の白さに頭痛を覚える。



ちゃんと眠ったような、ぼんやりとしか眠っていないような不思議な感覚で、体のだるさは少しだけマシになっていた。



カーテンの向こうへ視線を向けると聡介以外の3人の姿があった。



あたしはあわててベッドから降りた。



「みんな無事だったんだね!」



一様に青ざめてはいるけれど、元気そうだ。



ただ、ひとり、舞が手に包帯を巻いているのが見えた。



「それ、どうしたの?」



「先生に切られた……」



舞はとても小さな声でそう返事をして、うつむいた。



「もう手当てはしたし、傷は浅いから大丈夫だ」



変わりに大志がそう教えてくれた。



しかし舞はうつむいたまま顔をあげようとしない。



「担任の先生だったの。すごく優しい先生で、相談にもよく乗ってくれた」



1年C組の担任はたしか女性だったはずだ。



色白で、笑った顔が少女みたいにかわいくて、ふんわりとした雰囲気を持つ先生だったと記憶している。



そんな先生が狩に参加して、しかも自分のクラスの生徒を攻撃したなんて想像もできないことだった。



だから舞のショックは大きいみたいだ。



「とにかく、食べようぜ」



大志の声に視線を移動させると、いつの間にか先生の机の上におにぎりとお茶を並べていた。



飲み物の中にはジュースやエナジードリンクなども混ざっていて、あたしは瞬きをした。



そんなもの、食堂の女性からはもらってないはずだ。



不思議に思っていると聡介が苦笑いを浮かべて「さっき、自販機を壊してもらってきたんだ」と、説明した。



「俺たちろくに寝ずにまた逃げ回るんだ。とにかくカロリーや栄養は必要だろ」



大志はそう言ってあたしにエナジードリンクを差し出してきた。



炎のようなイラストが書かれていて、飲んだら強くなれそうだ。



あたしはそれを素直に受け取って一口飲んだ。



そして顔をしかめる。



エナジードリンクは初めて飲んだけれど、カキ氷のシロップみたいな味がする。



それからみんなで朝食をとって、今日1日どう逃げるかを相談した。

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