第45話

「ずっと保健室にはいられないよね」



あたしはチラリと聡介へ視線を向けて言った。



「それは無理だと思う。けが人をひとり置いておくことはできても、全員がここにいたら絶対に捕まる」



大志はそう言いきった。



「そうだよね……」



あたしは肩を落として言った。



昨日だって同じ理由で保健室から出たのだから、今日は安全というわけにはいなかい。



わかっていたけれど、聡介と離れるのが嫌だった。



すると聡介がベッドから立ち上がろうとしたのだ。



ゆっくりと、しかし、しっかり両足を地面につけて立つ。



それを見てあたしは目を見開いた。



聡介は少しつらそうな顔をしているけれど、確かに立てている。



「昨日に比べれば回復してる。俺のことは心配しなくていいから、みんな逃げてくれ」



それはあたしだけに向けられてものじゃなくて、ここにいる全員に向けられた言葉だった。



「言われなくても逃げる」



短く答えたのは花子だった。



その声色は突き放すように冷たいけれど、聡介が回復しているのを見て安心した雰囲気になった。



それからも、全員で固まって逃げたり隠れたりしないこと。



できるだけ鍵のかかる場所を見つけて逃げ込むこと。



襲われて動けなくなったらメッセージで連絡を入れることなどを約束とした。



これだけ決めたって、逃げ切れるとは限らない。



生徒たちの登校時間が近づくに連れて落ち着かない気分になってきた。



でも、昨日に比べたら少しだけ気分が楽だ。



昨日は要領がわからず、聡介とあたしは毎時間授業にしっかり参加しようとしていた。



しかし、他のメンバーを合流することで授業の参加は強制ではないとわかった。



学校から出ることはできなくても、それがわかっただけでも随分違う。



「よし、少し寝よう」



大志がベッドに横になる。



「隠れないの?」



花子が不思議そうな顔で聞く。



「普段、登校時間中は保健室は開いてないから大丈夫だろ」



そう言われればそうだったかもしれない。



まだ保険の先生も来ていないから、まさかここにあたしたちがいるとは誰も思わないだろう。



「このまま1時間目の休憩時間になるまではやり過ごせるはずだ」



そう言う大志の声はどんどん小さくなっていき、やがて寝息に変わったのだった。

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