第32話

「中を確認してくるから、ここで待ってて」



少し離れた場所に聡介を座らせて、あたしは保健室のドアの前に立った。



ドアノブに触れた状態で動きを止め、大きく深呼吸をした。



このドアを開ければ中にいる人物が突然襲ってくるかもしれない。



覚悟を決めないと開くことをができなかった。



「大丈夫だ」



後ろからそう声をかけてきたのは大志だった。



「少ない人数なら俺1人でもどうにかできる」



その言葉に心強さを感じて、少しだけ笑った。



「開けます」



そしてあたしは保健室のドアを大きく開いた……。



その瞬間中にいた白衣を着た女性先生と視線がぶつかった。



あたしと大志の姿を見た瞬間驚いたように目を見開く先生。



他には誰の姿もないようだ。



「あなたたち……」



先生が戸惑いがちに椅子から立ち上がり、近づいてきた。



「お願いします先生。怪我を診てください」



なにかを聞かれる前に早口で言い、頭を下げた。



その様子に眉間にシワを寄せつつ、先生は廊下を確認した。



座り込んでいる聡介を見た瞬間、先生の顔色がわかった。



サッと青ざめ、それから真剣な表情になって聡介に近づいて行く。



あたしは大志と目を見交わせた。



あの先生は攻撃してくる心配はなさそうだ。



「立てる? こんな……ひどいわね」



廊下で簡単に聡介の足を確認した先生はため息交じりに言い、大志と2人で聡介を保健室へと移動させて行く。



ベッドに横たえられた聡介の姿は余計に痛々しく見えて、思わず目をそらせてしまった。



「鍵をかけておいてくれる?」



先生に言われて花子が保健室の鍵をかけた。



あたしは窓のカーテンを引く。



これで外からここにあたしたちがいることはバレないはずだ。



「骨折まではしてないみたいね」



聡介の足を診ていた先生の言葉にホッと胸をなでおろす。



「それじゃ、歩けるんですね?」



「えぇ。でもしっかり休ませないとダメね」



先生は切り傷や擦り傷の手当てもしてくれている。



ありがたいけれど、休ませている暇がないのも事実だった。



「休憩時間だ」



花子が呟いたことでチャイムが鳴っていることに気が付いた。



保健室のチャイムの音は最小に絞られているようだ。



またみんながあたしたちのことを探しているかもしれない。



そう思うとやっぱり背筋が寒くなった。



「6時間目が終わったら放課後になるけど、そうしたらどうなるんだろう?」



あたしはつい、心配事を口走ってしまった。



すべての授業が終わるまであと1時間ほど。



掃除時間とホームルームを入れると1時間30分くらいか。



その後は放課後になり、実質休憩時間と変わらない時間が来るんじゃないかと考えてしまったのだ。



そうなると、どう考えても逃げ道はなかった。



トイレの個室も、空き教室も、どこにいても簡単に捕まってしまうだろう。

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