第31話
2階に続く階段を下りていったとき、踊り場の隅に誰かがうずくまっているのが見えた。
ハッと息を飲んで立ち止まる。
白い体操着を着たその人物は壁に向かって三角すわりをして、両手で頭を抱えて守っているように見せた。
背中は汚れ、シューズで蹴られた跡がいくつも残っている。
髪の毛はボサボサで引きちぎられた髪の毛がいくつも床に散らばっている。
あたしはそっと近づいた。
体操着が破かれているのがわかった。
「聡介?」
話しかける声が震えた。
嘘でしょ。
まさか、そんな……。
返事がないのでその場に膝をついた。
そっと手を伸ばして、肩に触れる。
その瞬間だった。
まるで火がついたように叫び声をあげ始めたのだ。
両手で頭を抱え、なにかから逃げるように身をよじる聡介。
「黙らせろ!」
大志が叫び、あたしは慌てて聡介の体を抱きしめた。
「聡介、あたしだよ。恵美だよ。わかる!?」
それでも聡介は叫び続ける。
目の前にいるあたしのことなんて見えていないかのように、必死でうずくまって身を守っている。
このままじゃ誰かが来てしまう!
授業中だから攻撃されることはないかもしれないが、そんなこと無関係に攻撃してくる連中だっているかもしれない。
とにかくこの法律にまともなルールなんて存在しないのだ。
「聡介!!」
あたしは無理やり聡介の顔を上に向かせた。
そしてその顔を覗き込む。
聡介があたしを見た。
その瞬間目が大きく見開かれ、悲鳴が止まった。
「恵美……?」
ようやく目の前にいるのがあたしだと認識した聡介。
しかし、もう時間がない。
休憩時間が始まるまであと3分ほどだ。
「聡介、歩ける?」
聞くが、聡介は返事をしなかった。
よほど恐ろしい目にあったのか、喪失状態であることがわかる。
こんな状態で3階の教室までたどり着くことができるかどうか不安が残る。
随分と怪我もしているみたいだし、できれば聡介の手当てがしたかった。
「1階の保健室に行きませんか?」
一か八かであたしは2人へ向けてそう提案した。
「保健室か。他の生徒がいるかもしれないぞ」
思っていた通り、あまりよくない顔をされた。
「その時は諦めます。3階まで逃げる時間もないから、近くのトイレに逃げます」
そのくらいしか逃げ道はなさそうだ。
「わかった。1階に行けば舞にも会えるかもしれないしな」
大志はそう言い、頷いたのだった。
あたしたちは3人で聡介の体を支えながら階段を下りはじめた。
聡介は足も随分怪我しているようで歩くたびに顔をしかめた。
「もう少しだから頑張れる?」
「あぁ、大丈夫」
そう返事をしながらも額には脂汗がにじんできている。
もしかしたら骨折でもしているのかもしれない。
そうなると保健室での手当てだけじゃどうしようもない。
嫌な考えがよぎる中、どうにか保健室の前までやってきた。
電気はついていて、中に誰かがいる気配もある。
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