第18話

☆☆☆


生徒の人数が増えた今、どこ学校にも空き教室は少なくなっている。



この学校は3年前に同じ敷地内に新しい校舎を建てたため、まだ余裕があった。



「誰かにバレてもすぐに逃げだすことができる場所がいい」



聡介は小さな声でそう言いながらあたしの前を歩いてくれた。



右にも左にも廊下が続いていて、行き止まりのない空き教室。



そんな都合のいいものがあるのか、入学して間もないあたしたちにはわからない。



だから自分たちで探すしかなかった。



足音を立てないようにそっと階段を上がり始めたときだった、前方に女子生徒の姿が見えてあたしたちは身を屈めた。



ショートカットの後ろ姿で、顔は見えなかった。



授業中にトイレにでも行ったんだろうか?



でも、トイレは各階にある。



わざわざ階段を使う必要はないはずだ。



おかしいと感じてあたしと聡介は顔を見合わせた。



なにかあるかもしれない。



もしかしたら、商品であるあたしたちを探しているとか?



嫌な予感がよぎったとき、不意に女子生徒が立ち止まって辺りを見回し始めたのだ。



隠れようとしたけれどここは階段だ。



階段を降りるしか道は残されていない。



後ずさりをするように階段を降りようとした瞬間、女子生徒と視線がぶつかった。


悲鳴を上げてしまいそうになり、慌てて両手で自分も口をふさいだ。



女子生徒もこちらと同じように驚いている。



「逃げろ!」



聡介が言うと同時に身を翻して階段を折り始めた。



「待って!」



女子生徒がそんなことを言っても止まるわけにはいかなかった。



ここで止まったらどうなるか。



考えるだけで背筋が凍りつく。



絶対に足を止めちゃいけない。



そう、思ったのに……。



「B組の2人でしょう?」



そう言われて、足が止まってしまっていた。



ぎこちなく振り返ると女子生徒が一歩一歩こちらへ近づいてくる。



聡介があたしの前に立ちはだかり、両手を横に伸ばした。



「警戒しないで。あたしは1年C組の尾上舞(オガミ マイ)」



尾上舞。



どこかで聞いたことのある名前だった。



1年生だというから、どこかで聞いたことがあってもおかしくない。



でも、だからって油断はできなかった。



同じクラスの子たちでもあんなに簡単に豹変したのだから。



「あなたたちも商品に選ばれたんでしょう?」



その言葉に聡介の肩がビクリと震えた。



やっぱりこの子もあたしたちが商品だって知ってるんだ!



早く逃げないと!



そう思いながらも彼女の言い周りに違和感があった。



「あなたたちもって、言った?」



聡介の後ろから質問をすると、舞は頷いた。



そして自分の右頬を見せてきたのだ。



そこにはあたしたちと同じように絆創膏が貼られていて、ドキンッと心臓が大きく跳ねた。



舞は絆創膏をゆっくりとはがしていく。



肌に刻まれていたのは番号だった。



326.



その無表情な番号があたしたちの頬にあるものだと同じだとすぐにわかった。



「嘘……」



思わず呟いた。



まさかこの学校内に商品になった人間が3人もいるなんて思っていなかった。



唖然として舞を見つめると、舞は目を伏せて「みんな、一気に変わっちゃったよね」と呟いた。



「あぁ……。君も逃げてきたのか?」



「うん。あたしたちと同じ商品がいないか、探してたところ。今なら授業中だから安全だしね」



また違和感だ。



あたしは聡介の後ろから前へ出た。



「さっきから聞いてたらまだ商品になった人がいるように聞こえるんだけど?」



「そうだよ。あたしたちの他にあと3人いる」



その言葉にあたしは目を見開いた。



聡介が後ろで息を飲む音が聞こえてきた。



「その3人も、同じ生徒なのか?」



「そうだよ。みんな3回の空き教室に集まってる。あなたたちも来るでしょう?」



コクンと頷く舞。



あたしは聡介と目を見合わせた。



舞の言葉を信用してもいいのだろうか?



油断してついて行ったら攻撃されるかもしれない。



そんな不安が膨らんでいく。

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