第17話

「どうして外に出られないんだろう……」



あたしは目の前に広がっている外の景色を睨み付けた。



校門の向こうでは車や人が行きかっていて、平穏な日常が流れているように感じられる。



今朝両親が言っていたとおり、人から逃げるためには人の中に紛れ込むのが一番だと思えてくる光景だ。



「まだ、学校が終わる時間じゃないからかもしれない」



「そんな……」



あたしたちは早退をした。



それなのに外に出られないんじゃ意味がない!



「とにかく着替えないといけない。保健室に行こう」



あたしは聡介に支えられてどうにか立ち上がったのだった。


☆☆☆


保健室の鍵は開いていたけれど、誰の姿もなかった。



あたしたちは勝手にタオルを借りて全身を拭き、体操着に着替えさせてもらった。



もしもの時用に制服や体操着にはストックがあるのを知っていた。



体操着を選んだのは動きやすいからだ。



「お前に、隣の家の人が商品に選ばれたんだ」



ベッドに座って今後のことを考えているとき、聡介が言った。



「え?」



「5年くらい前の話だ。そのお兄さんは俺よりも7つ上で、当時18歳だった。人権剥奪法にひっかかるギリギリの年齢で、もう選ばれることはないだろうって思ってたのに……」



そこで言葉を切ってうなだれる聡介。



当時の様子を思い出しているのか、眉はきつくひそめられている。



「俺、そのお兄さんが商品になってからも何度か会ってたんだ。兄弟や、近所の人にバレないようにこっそり。その時聞いた話だと、商品になった人間の日常範囲は極限まで狭められるらしい。しかもこの警告音は無秩序に鳴り始める。商品になった人間を躍らせるためだけの装置だって言ってた」



その話にあたしは気分が悪くなってきていた。



こんな法律を決めた人間がいること。



こんな警報音を鳴らす人間がいること。



そのことがとてつもなく気持ち悪い。



「放課後になったら外へ出られると思う?」



その質問に聡介は左右に首を振った。



「わからない。もしかしたら、出られないのかもしれない」



もしそうだったら?



夜も朝も昼もずっと学校から出ることができなかったら?



あたしは今日の午前中だけで経験してきたことを思い出し、自分の体をきつく抱きしめた。



これから毎日あんな恐怖を味わうことになるのかもしれない。



「商品が一度家に帰ったら、もう出てこなくなるかもしれない。そうなると、他の連中は面白くないよな。商品になっていない家族に危害を加えることはできないから、一週間隠れ続けることも可能かもしれないんだから」



商品が隠れられないようにこの警報音は鳴る。



あたしは自分の胸に手を当てた。



生まれたときに体内に埋め込まれたというチップはどこにあるんだろう?



肌には傷も残されていないから、チップを取り出すことも難しい。



どこまでも徹底されているのだ。



「とにかく、ここに誰かが来る前に隠れる場所を探しに行かないといけない」



そう言って聡介は立ち上がった。



さっきは1年の教室がある2階の空き教室へ逃げ込んだ。



だけどそこはもうマークされているだろう。



同じ場所に隠れることはできない。



「そうだね。行こう」



あたしはそう答えて、立ち上がったのだった。

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