第13話
☆☆☆
いつもなら授業時間なんて早く終わってほしいと思う。
だけど今は違った。
いつまでも終わってほしくない。
永遠に授業時間中であってほしいとすら願う。
しかし、そんな願いは誰にも届かない。
秒針は刻一刻と時を刻んでいて、ついに授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いてしまった。
教卓にまだ先生が立っているなら、あたしは反射的に席を立ち、ドアへ向かって走っていた。
先生が「まだ話は終わってないぞ」と声をかけてきたけれど、止まっている暇はない。
ドアの手前まできて手を伸ばした、その瞬間だった。
入り口に一番近い席に座っていた男子生徒が立ち上がり、ドアをふさいだのだ。
伸ばした手が男子生徒によって阻まれる。
後ろの教室から逃げだろうと身を翻したときにはすでに5人の男子たちに取り囲まれてしまっていた。
嘘でしょ!?
青ざめて、足が動かなくなる。
先生が呆れ顔で後ろの教室から出て行くのが見えた。
「待って、先生助けて!」
悲鳴をあげるが、先生は振り向きもしなかった。
それは、あたしが商品だから。
あたしには人権がないから。
「北上って結構可愛いよな」
ひとりの男子生徒がそう言ってあたしの手をつかんだ。
咄嗟に振り払う。
するとむひとりの男子が後ろからあたしの体に抱き着いてきた。
突然密着されて毛が逆立つ。
「離してよ!」
「お、家畜がなにかわめいてるぞ」
「おいおい家畜はかわいそうじゃね?」
「人間じゃないんだから、家畜でいいだろ?」
そんな話をして大笑いし始める。
あたしは必死に身をよじって逃げ出そうとするが、男の力にはかなわない。
「恵美!!」
聡介の声に視線を向けると数人の男子に取り押さえられた状態だった。
「ちょっと、聡介になにするの!?」
「人の心配してる場合かよ。お前どういう状況か理解してんの?」
男子の顔が近づいてきて、キスされそうになる。
あたしは首をひねって難を逃れた。
「ちょっと男子。そういうのって他でやってくれない?」
嫌そうな声を出している女子たちも助けてくれる気配はない。
どうしたらいいの……!?
涙が滲んできたとき、思いのほか大きな悲鳴を上げていた。
誰でもいい。
なんでもいいから助けて!
そんな思いで出した悲鳴は教室を揺るがし、隣のクラスまで難なく届いていた。
「どうしたの!?」
ドアが大きく開いて複数の生徒たちが顔を除かせてくれたのだ。
「た、助けて!!」
必死に叫ぶ。
「なにしてんだよ!」
「お前らどうしたんだよ!」
隣のクラスの男子たちが止めに入ってくれて、あたしを抱きしめていた手の力が緩んだ。
その隙に身をひねり、逃げ出した。
人ごみを掻き分けて必死に廊下に出る。
「逃げたぞ、追いかけろ!」
「あいつは商品なんだ! 余計なことすんな!」
さまざまな慟哭が後ろから聞こえてきたけれど、あたしは一度も振り返ることがなかったのだった。
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