第3話

☆☆☆


「次の月曜日に商品が変更されます」



ゆうはんをカレーを食べているとき、そんなニュース番組が流れていた。



興味がなくて画面を見ていなかったから、よく覚えていない。



でも、この国が少子高齢化に終止符を打つために、義務教育を高校まで引き上げたことは知っていた。



それはあたしたちが生まれるずっと前に改正された法律らしく、生まれたときにはすでに世間の常識というやつになっていた。



そしてあたしたちが小学校を卒業するときには、日本の治安が全国トップレベルで悪くなったというニュースも聞いた。



その時のニュース番組では、よくわからない専門家だと名乗っている女性が『高校の義務教育化によりどんな生徒でも高校に入学できるようになりました。



つまり、勉強しなくてもよくなったわけです。ですが、早い子では小学校時代にはすでに道を踏み外していて、それを正すこともできないまま高校に上がってしまっています。



え? どうして正すことができないか、ですか? そんなの子供の数が増えすぎたからに決まっているでしょう? いまや一組の夫婦に4人の子供は少ない方です。



で、話を元に戻しますと、そうして成長した子供たちを悪い方へ勧誘する大人たちもまた増えているということです。



当然ですよね。大人たちだって高校を義務教育で出ているんだから、今の子供たちと同じような道を歩んでいるんです』と、長々と義務教育のせいで悪いヤツが増えた。



という持論を述べていた。



その時は女性専門家の偏った思想だと考えていたけれど、どうやらそうではなかったらしい。



子供が増えに増えて、悪いことを考える大人も増えた。



そしてそれについていく子も多くなった。



そうなると治安が悪くなるのは当然の結果だった。



そこで政府が次に打ち出したのは『人権剥奪期間』だった。



18歳以下の子供たちの人権を一週間剥奪できるらしい。



しかし、人権を剥奪されるのは選ばれた子供たちのみ。



選ばれるのは全国で500人の子供たち。



ランダムで選ばれたら、朝起きたときに右頬に数字が浮かび上がっているらしい。



なんで体に数字が浮かび上がってくるのかはよくわからない。



でも、この法律ができてから生まれてきた子供の体には、チップが埋め込まれていて、それが反応しているのだろうと思われている。



人権を剥奪された相手にはなにをしてもいいというのがルール。



下手をすれば500人の子供が死ぬということ。



だけどこれが政府の目論見だ。



子供が増えすぎた今、少しでも減らしたいと考えているから。



だけど単純に殺すことなんてできない。



だから子供の非行と結びつけた法律を作ったんだ。



表向きには度重なる若者たちの非行から大きなストレスが生まれ、それがまた悪意へと変わってしまう。



それを防ぐために、若者たちに犠牲となってもらい、ストレス発散をする。



ということになっている。



それは大人たちが勝手に決めたたわごとだった。



産め増やせといいながら、増えすぎたら間引きする。



子供たちは人権剥奪の恐怖を知って、大人たちに従うようになる。



結局のところ子供たちを自分たちの思うままに動かしたいのだろう。



だからか、ニュース番組では人権を剥奪された子供たちのことを『商品』と呼ぶ。



そうすることで人間ではないのだと、世間に知らしめているのかもしれない。



「次の商品は誰になるのかしらね」



夕飯を食べながらお母さんが呟く。



あたしはカレーを口に運びながら「知らない」と、短く返事をした。



いまや日本は子供だけで1億人に迫る勢いだ。



その中のたった500人が選ばれる。



どうせ自分じゃないことには、興味がない。



「それより、今日のドラマ見させてね? 正文君が出るんだから」



あたしの日常は変わらない。



「月曜日になりました。本日、商品が変わります」



近所の家からニュース番組の声が聞こえてきて、あたしは目を覚ました。



ベッドから腕を伸ばしてサイドテーブルのスマホを確認する。



朝6時半だ。



あと30分は眠ることができる。



そう思って再び目を閉じた。



隣に暮らしてるおばあさんは耳が悪くて、テレビの音量が大きいんだ。



あたしは布団を頭からかぶって目を閉じる。



そのまま眠ってしまおうと思ったけれどノックもなく部屋のドアが開かれた。

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