第4話

「お姉ちゃん起きて!」



そう言ってあたしの布団を無理やりはいだのは小学3年生の妹だ。



家族の中でも一番寝起きのいい妹はすでに着替えも済ませている。



「もうちょっと寝るんだから」



眉間にしわを寄せて不機嫌さをアピールしながらもう1度布団にもぐろうとする。



「あれ? お姉ちゃんここになにかついてるよ?」



妹の小さな指があたしの右頬に触れた。



その瞬間、なにか硬いものが右頬の内側に押し込まれるような感覚があって、あたしは目を見開いた。



え、なに……?



「ねぇ、001って書いてあるよぉ?」



無邪気に言う妹の体を押しのけて姿見の前に立つ。



自分の顔を確認したとき、呼吸が止まった。



「なに……これ……」



右頬に浮かび上がっている数字。



さっき妹が言ったとおり、001と書かれている。



その数字がなにか、冷静に理解する前に背中に汗が流れていた。



妹はあたしが早起きしたことが嬉しいのか、部屋の中をジャンプしながら走り回っている。



普段は怒るところだけれど、今はそんな場合じゃなかった。



鏡を見ながら右頬に触れる。



数字の上をなでると、またなにかが押し込まれるような感覚がした。



しかし、表面の皮膚にはなんの違和感もない。



体の内側から数字が浮かび上がっているような感じだ。



とたんにゾクリと体が寒くなった。



『月曜日になりました。本日、商品が変わります』



お隣さんから聞こえてきたテレビニュースの声を思い出し、部屋から飛び出した。



妹がはしゃぎながら後ろをついてくる。



あたしはリビングまで走ってテレビをつけた。



見慣れたニュースキャスターが、なんでもないことのように商品が変更されたことを告げていた。



「次の商品って……あたし?」



テレビの前で座り込み、呟く。



全身の力が抜け落ちて行って、立ち上がることができない。



「先週、人権剥奪期間中に亡くなった商品は250名でした」



ついでのようにキャスターが告げて、すぐに次のニュースに移ってしまった。



あたしはそれでも呆然として座り込み、テレビ画面から視線をそらすことも忘れていた。



そんな……。



あたしの人生は順調だったはずだ。



親友と呼べる友達がいて、カッコイイ彼氏がいて、好きな芸能人がいて。



イジメとは無縁で、楽しくて……。



それらがガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。



一瞬にしてガラクタになる。



あたしは商品に選ばれた。



これから一週間人権を剥奪される。



人権剥奪中はなにをされても反撃してはいけない。



だって、あたしは商品であり、人間ではなくなるから……。


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