第二十三話 湖畔の家
我ノ考エテイタ事、マサカノソノ通リニナッタカ
人間トハ、本当ニ哀レダッタノダナ
己ノ欲ヲ優先シ、邪魔立テスレバ対象ヲ排除スル
GA-Xガ本当ニワカリヤスイ例ダ
ダガ、ソレ以外ハ何ダ?
DBA-01Eノ人格ぷろぐらむガ最モ変化ガ顕著ダッタ
人間ラシイ見タ目ヲシテオリナガラ、顔ノ形ヲ変化サセル、感情表現ト言ッタカ
我ノ前デハタダノ一度モ見セナカッタノニ、DBA-03Aト行動スルヨウニナッテカラ大イニ変化シタ
DBA-02Cモ同様ダ
二体程ノ感情表現ト言ウモノト比ベテ比較的豊富デハナイガ、同様ノ感情ト捉エテヨイダロウ
破壊サレル直前ガ正ニDBA-02Cノ最モ変化シタ結果ダロウ
ソシテDBA-03A
最モ感情表現ガ豊富デ、我カラ分析シテモ、あんどろいどトハ同列ニ扱エナイ
兵器、トシテ見ルナラバ完全ナ失敗作ダロウ
ダガ、コレハナンダ
我ハマダ、何カヲ見セラレヨウトシテイル
次ニ我ガ行ウベキコト、必要カ否カ
コレデワカル
サア、見セテクレ
ジンはサクラとの散策しつつ、異質な気配を感じていた。
識別番号が全く表示されず、常にUnknownと記されており、正体が何なのか皆目見当がつかない。
そのUnknownは、特に二人を追っていないようで、時折索敵レーダーに一瞬表示されてはすぐに姿をくらませている。
ジンはこのような現れ方をする敵は何度か遭遇した記憶があるが、それ以上にこの状況下でのこのような存在を不気味に感じていた。
マスターと称するIRT-044は、識別コードが全く表示されず、ステルス性能もあるのか索敵レーダーには引っ掛からなかった為、IRT-044とは全く別の存在と認識していた。
オトギリソウに至っては、クエルによるアップデートのおかげでGA-Xと表記されるようになっていた。
しかし、これに関してはGA-Xと記されていない。
ツバキともアザミとも異なり、今まで遭遇した事のない存在だったのは明白だった。
特に攻撃してくる様相はなかった為、ジンは特に気にしないでいたが、現れる度に行動パターンを記憶し、いつでも警戒出来るようにしていた。
サクラも同様に気付いていたようだが、特に気にしていないようだった。
ツバキとアザミの事に決着をつけたとは言え、もうこれ以上新たな存在との接触は望んでいないようにも思えた。
そんなサクラの想い、姿に、ジンはどこか優越感を覚えながら、儚げにも感じた。
実際、二人は湖からほぼ離れないようになっていた。
湖畔にある小屋の廃墟があったのをジンが修繕し、気分だけでも快適に過ごせるように、改築した。
サクラは常にここで過ごせる事に喜んでおり、ジンはそれを良しとして“家”をしっかり作り始めた。
商業区からサクラの好きそうな、使える物ばかりを集め、“家”に持ち帰る。
“家”と言うより、さながら趣味部屋のような様相だった。
実際、二人は食事の概念がない為、衣服は量子情報化する際に自動洗浄される為洗濯関係のものは必要ない。
強いて言えば掃除用具ぐらいで、本当に趣味部屋としか言えない、偏った“家”になっていた。
そんな“家”で過ごし始めて半年。
当然ながら何も変化はなく、しかし異質な気配が一瞬現れては消えるというイレギュラーな存在を除けば、至って平和に過ごしていた。
この時には、ジンがわざわざツバキとアザミの写真を現像し、サクラに渡していた。
サクラは涙目になりつつもとても喜び、窓辺近くの棚に写真を入れて飾った。
ツバキだけは単独で映っているが、後はアザミだけの写真、クエルの写真、全員がまとめて映った写真。
最後に追加したのは、ジンがわざわざ合成して作った、ツバキも入れての全員が集まった写真だった。
本当に起こった出来事なわけでなく、写真の右隅にBe Wishとだけ、ジンの自筆で文字が書かれている。
望んでいた事。
叶わなかった事。
それでもせめてもの形で。
サクラの想いを酌んでの、ジンの計らいでもあった。
そんな和やかに続く日々に、ジンは変化を与えた。
「サクラ、今この生活はどうだ?」
不意に問われたサクラは目を丸く瞬いたが、すぐに笑顔になって答えた。
「楽しいよ!
ほんとならアザミ姉さんもツバキ姉さんもいて欲しかったけど。
クエルもちゃんとした形で。
でもこれはこれで、幸せって言うのかな?」
少し訝し気に思いつつ、サクラはサクラは朗らかに答えた。
「なあ、変な気配、気付いているよな?」
唐突に質問を変えたジンに、サクラの顔が少し固まった。
「何だか不気味だ。
大した事ないなら放置してもいいんだが、出来る限り、サクラの周囲から危ない存在を排除したい。
だからこれから見てくる」
ジンは立ち上がり、玄関に向かって歩き出した。
ドアの前に立って扉を開けようとドアノブに手を翳そうとした時、背後からサクラに抱き着かれた。
「気づいてたけど、特に何もしてこないから、放っておいていいんじゃない?
・・・もう誰もどこにも、いってほしくないよ」
サクラの悲痛なか細い声が聞こえてくる。
ジンは構わず外に出ようと思ったが、やはり躊躇ったのか、ドアノブから手を離し、サクラに向き直った。
「・・・お前が言うならそうする。これからもそうしていこう」
勢いなのか、ただそうしたいと思ったのか、ジンはサクラの唇にキスをした。
ジンが口を離してみると、どういう仕草なのか、どう言う意味を持ってるのか当然ながらわからず、きょとんとした顔になっている。
「これって、何?」
初めて、機械らしい質問をしたな、と思ったジンは少し噴き出した。
「え、何?どういう意味??」
慌ててサクラに咎められるジンは、失笑しながら答えた。
「大事に思ってる人間に対して、自然とする事だ。
時間はたっぷりある。ゆっくり考えたらいい」
ジンらしい、不器用な答えだった。
その和みを終わらせる足音が、湖畔に小さく反響した。
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