228 エピローグ②

 時を遡ること数日。

 

 高位魔族との戦いの後、数時間。


 ジルは、北東大陸ムーンシー国の、バシウ村へと辿り着いた。

 戦いの後、ジルは酷く傷つき、動くことがやっとだったので、身を隠しながら、その村で体を休めることにした。

 四日ほど親切な村人に世話になり、体を休めたジルは、凄まじい回復力ですっかり体の傷は治った。


 ジルは、その四日の間に、魔王との戦いが終わったことを悟っていた。

 ジルの目覚めた魔族の能力は、大きな力を探ることもできた。

 だが石を持つ者たちはどこへ行ったのか、ジルは分からなかった。彼らは力を失ったからだ。



(もう大丈夫だ。体は何ともない。ロミオたちを探そう)

 


 ジルはひとまず、魔王の気配がしていたメイクール国へと、魔術を使って飛び立った。

 バシュッ。

 

 ジルの浮遊術フロートは空を駆けるように飛び、ジルはあっという間にメイクール国、王都へと降り立った。

 浮遊術フロートを使えば騒がれるので、人気のない場所に降り、城まで歩くことにする。

 

 メイクール国の城へ着き、門番にジルは名乗り、アルと知り会いだと話すと、訝りながらも兵士は話を通してくれた。


 召使いに客間に案内されたジルは、そこで、ロミオたちに再会した。

 その場にいたのはロミオとダン、ネオとクルミだ。



 ロミオはジルが部屋に入ると駆け寄り、

「ジル、無事で良かった」

 とジルの肩に手を置いて笑顔を見せた。

 ジルも、大丈夫だ、と笑顔を返す。


 皆、酷い怪我をしていた。

 

「ここにいない仲間も、皆力を失ったが、無事だよ。――僕たちはもう少し体が良くなるまで、メイクール国で療養することにしたんだ」

 ロミオが再び椅子に腰かけて説明する。


「ジルも酷い傷だったと思いますが、もう治ったのですね」

 ネオは、すっかり傷の治っているジルに、驚いた様子で言う。

「ああ、オレは頑丈にできてるんだ」

 ジルが言うと、ダンは、凄いな、と感嘆する。


 神の力を失った今、この中で最も強いのは、間違いなくジルだろう、と誰もが思った。


「ツバキは、どっか行っているのか? アルやロゼスたちは、忙しいんだろうけど……」

 何となく気まずくなり、ジルは話を振る。


「ああ、そうそう、ツバキはね、まだ少し動けるくらいだってのに、もう出て行ったよ」

 どこへ行ったんだろうね、と、ロミオは少し笑って言った。



 ツバキはじっとしていられない性質たちなのだろう。

 どこへ行ったのか分からないが、魔王を倒して二日目には、皆に挨拶だけをして、立ち去った。

 彼にも、もう神の力や石は消えたが、不思議なことに、ツバキには炎の力が残ったようだ。

 

「ジル、少し、説明しておくよ」

 と言って、ロミオは、天世界や神々が消滅したことを、ジルに話した。

 再会したパティが、記憶を失ったことも。


 少しの沈黙の後、顔を上げたのはクルミだ。

「ねえ、みんなはこれからどうするの?」

 クルミが周囲を見回して言った。

 クルミの明るい声に、皆は、少し気持ちが上向いた。


「あたしは、一週間後には、一旦、国に帰ろうと思ってる。ダンが船を用意してくれるっていうからさ。いつも旅に出ているけど、父親がグリーンビュー国にいるから、たまには、顔見せないとね」

 クルミは少し照れて、にっと笑う。


「ええ、私も、仕方がありません、ムーンシー国の自宅に、一度帰ります」

 ネオは言って、息をふっとつく。


 ――クルミと離れるのは、寂しいですがね、という言葉を、飲み込んだ。


 ジルがロミオの顔を見ると、ロミオは少しだけ考えて、

「そうだな、僕も、カストラ国へ帰るよ。バノン王に言われたことを放り出したままだから、このままって訳にはいかないからね」

 ジルが心配そうな顔をした。

「だけどロミオ、王に言われて武器作りしているから、好きな研究の時間を取れないだろ?」

「ジル、大丈夫だ。ちゃんと話し合うよ。それで決裂したら、国を出て行く」

 ロミオは強い目で言った。


 じゃあ、オレも――、とジルが言いかけたところへ、ダンが、ジル、と話し出す。


「もしお前がカストラ国へ帰りたくないなら、俺の船で面倒見るぞ? これは、ロミオから頼まれていたことだ。実は俺も、海賊稼業については考えてることがあるから、俺が面倒見るって訳にはいかねえが、船の奴らは、ジルを酷いようにはしねえよ」


 ダンがジルにそう言うと、ジルは驚いたが、嬉しさもあった。だが、少年の答えは決まっている。


「ダン、ありがとう。でもオレは、ロミオに付いて行くよ」



 ――オレには、ロミオが必要だ。

 きっと、もっと成長して、親離れ、するまでは。

  


 という言葉をいうのは流石に恥ずかしいので、ジルは言わなかったが。


 

 アルやロゼス、イーシェアは、酷く傷ついたメイクール国復興のために、今も忙しく働いている。記憶を失ったパティは、アルと一緒にいるらしい。



 ……そして一週間後、まだ体は万全ではないが、ロミオ、ネオ、ダン、クルミは、メイクール国を旅立つことにした。





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