224 光
「アルタイア王子……」
いつの間にか、横たわったアルの傍に、兵士や仲間たちが集まっており、その内の誰かが呟く。
少し離れた場所にいたネオたちも、ゆっくりと、その人だかりの方へ歩んでいた。
「王子が、
アルの元へと辿る中、兵士らが口々にそう言っているのを聞いた。
まさか、と思いながら、ダンたちは、人垣を分け、アルの顔を覗き込むと、それが真実なのだと、思い知ることとなった。
皆、言葉が出て来なかった。
信じられない思いと、その尊い人を失くした悲しみが、肩や背中に、ずしりと重く圧し掛かる。
誰もが同じ痛みと悲しみを背負い、その暗く淀んだ空のような思いを抱いている中、ばさ、ばさっ、と、翼をはためかせる音を聞く。
その場の者たちが空を見上げると、大きな――、半分は真白く、もう半分は黒い翼を持つ美しい顔をした少女が、飛んでいた。
しんと静まり返るその場に、天使のような、魔のもののようにも見えるパティが降り立った。
「パティ……」
パティの姿を見て、クルミが言った。
クルミが続けてパティに声をかけようとするが、ダンがクルミの肩に手を置き、首を横に振ってそれを制した。
パティが人垣の前まで来ると、彼らはパティのために道を開け、パティはアルの姿を前にして、膝をついた。
「アル……?」
パティは不思議そうに首を傾げ、アルの手を取る。
「アル、起きて、ください」
アルの手は、まだ温もりがあった。
だが生きている手とは違う。
その体も、ただ力なく、横たわる抜け殻に過ぎない。
パティの頬を涙が伝う。
何よりも誰よりも大切なアルが、死んでしまったという事実。
受け入れ難い現実を目の当たりにし、何もかもが、崩れていくような感覚。
「嘘、です、こんなの……」
パティは、ようやく、それだけを言った。
「アル……、いや、です……、お願いです、目を、覚まして……」
あとからあとから涙が零れ落ち、目の前が霞んでいく。
アルの手を強く握り締め、どうか、これが夢ならば覚めて欲しい、と強く願う。
ぎゅっと目を瞑っていたパティだが、目の前にいるアルが死体であっても、その目に映していたくて、パティは、瞳を開く。
すると、アルの死体から、一つの光が、浮かんでいた。美しく、温かみも感じる優しい光だ。
その光はパティの目の前を通り過ぎ、空に舞い上がった。
(あの光――)
――あれはきっと、アルの魂だ。
わたしには、解る。
だってわたしは、魂を司る、冥王の娘の生まれ変わりだから。
あの光を、行かせては駄目だ。
「待って、アル……!」
パティは光を追いかけて、空に舞い上がる。
光はどんどん早く空を飛び、パティを翻弄するように、くねくねと動き回る。
パティは必死に光を追いかけ、空を飛び続ける。
見失わないように、逃がさないように。
光は、まるで、パティと追いかけっこをして遊んでいるようだ。
パティは光に向かって手を伸ばす――、しかしアルの光は、するりとパティの手をすり抜けた。
「アル、逝っては駄目! 戻って来て、お願い……」
パティは光をどこまでも追いかけ、気付けば、高く高く、地上からは見えないほど高く舞い上がっていた。
――絶対に、逝かせない。
「アル、わたし、やっぱり、アルが好きです」
――あなたがシュガだったから好きなのかは、分からない。だけど、アル、あなたが誰であっても、わたしはきっと、あなたを好きになった。
何度出会っても、わたしは、アルに恋をする。
「……みんな、待っています、だから、戻って来て、アル」
パティは更にスピードを上げて、アルの光に向かって手を伸ばす。
やっと、光が、パティの手に触れた。
――わたしは、アルを助けられる。
わたしはもう、天使じゃなくなったとしても、魔の力も、全て失っていい。
ただアルがいれば、いい。
アルが生きていれば、いい。
「アル、お願い、戻って来て……」
パティは光を捕まえ、ぎゅっと抱き締める。持っている光と闇の力を全て込め、抱き締めた。
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