217 魔王デルタロギス
――では、始めよう。
天世界で神が勢揃いし、ウルスラが他の神々を見回して言った。
地上から天世界へ渡るのは難しくない。
例え魔王が倒されたとしても、幾人かの高位魔族が天世界で力を振るえば、天世界のバランスが崩れることもあり得る。
早く、地上から天世界を切り離さねば、危険だ。
ウルスラ、ライザ、アクア、バグーラ、ユリオス、アズール、シーナは近くに集まり、輪を作る。
(悔いは、ない……って言えば、嘘になるか)
ライザは地上に思いを馳せる。
自らの手で魔王を倒せなかったことは心残りであるが、石を持つ者たちは、きっと魔王を倒してくれる――、とライザは信じている。
ウルスラたちが、自らのエネルギーを輪の中央に注ぎ始める。
それぞれの神の力が集まっていき、周囲が眩く発光する。
(パティ、それに、人間たち……お前たちに会えて、面白かった……。セシル……、じゃあ、な……)
ライザの体が、赤い光に変化する。
他の神々の体も、それぞれ別の色の光に変化していく。
天世界が終わる。
今、その時が訪れた。
神々が光りに変わると、その光は集まって、天世界を包み込む。その地上と同じ形をした美しい世界は、何の前触れもなく、消えてなくなる……。
天世界も、神々であった光も、全て無に返る。
だが、その中の一つ、赤い光は全てが消滅する前に、青い小さな光となり、何かの力に吸い寄せられるかのように、地上へと降りていった。
それは、ライザを象っていたものの一部の光だ。
それは、いずれ、一つの命となり、生まれてくるであろう。
――もし、できるなら、ライザを転生させて欲しい。
それがセシルの願いだった。ノエル・ジュダムは、ライザのエネルギーが全て消える前に、回収したのだ。
その青い光には、意思がある。
それは魂と同等の価値を持つ。
青い光は、いつ生まれるのか定かではない。
だが間違いなく、それは、生まれ変わる。
その時を待ち侘び、ライザの魂は、地上を旅する、光となった。
地上――、北西大陸のメイクール国では、まだ、魔王との戦いが続いていた。
巨大な魔王デルタロギスのすぐ近くに、アル、ロゼス、イーシェア、ロミオがそのものをじっと見つめている。
デルタロギスは笑っている。
近くにいるアルたちは、そのものの放つ重苦しい瘴気を感じていた。
ロゼスが槍を手に飛び出そうとするが、ロミオがそれを制する。
デルタロギスは、巨大な体を素早く動かし、飛び上がって、真下にいる人間たちに爪を向けた。
ズガッ!
デルタロギスが爪を向けた地面が割れ崩れた。
「じっとしていても仕方がない!」
言ってロゼスは槍を構え、飛び出した。
その槍は、ロゼスの手から光を吸い込み、巨大な槍へと変化する。
だがロゼスの槍を、デルタロギスは叩き落とした。
巨大な槍がロゼスの手から離れ、彼は無防備となる。
デルタロギスは鋭い牙を覗かせて笑み、巨大な腕を振り上げた。
「危ない!」
ロミオが腕を前に出して、旋風を巻き起こす。
デルタロギスは旋風に飲まれず、ロゼスは風に巻き込まれ、高く飛んだ。
落ちて来るロゼスを、ロミオが空中に飛び、キャッチして着地した。
皆が一カ所に集まる。
「ロゼス、一人で挑むのは危険だよ」
ロミオが言ったが、ロゼスは返事をしなかった。
「魔王の動きを止めてから、残った者で一斉に攻撃しよう。それが、魔王を仕留める最善だ」
アルが見回していうと、皆、頷く。
ロゼスもアルが言ったので、はい、と返事をした。
「では私から、行きます……!」
イーシェアがすっと前に出て、両手を真横に伸ばす。
するとゴウウウ……という水音がして、その洪水のような水は一度上空を駆け上がり、一斉にデルタロギスに向かって降り注いだ。
膨大な水が刃のような鋭さで向かって来て、デルタロギスは怯んだ。
続いて、アルとロゼスが、大量の水の刃が向かった先のデルタロギスに、剣と槍を手に、飛び出した。
水飛沫で魔王は見えないが、その先にいることは確実だ。
「はあっ!!」
ガツッ!!
気合いの声と共に二人は刃を振るったが、槍と剣は、デルタロギスの体には刺さらない。
水飛沫が、ザンッ、と地上に落ち、その者の姿が現れる。
デルタロギスは、土の巨大な壁を出現させ、攻撃を防いだ。武器は、その壁へと突き当たった。
デルタロギスが攻撃に転じる前に、奥からすぐにロミオが出て、巨大な竜巻を出現させる。
竜巻はごうごうと唸りながら、デルタロギスに向かっていく。
「グアアアアアア!!」
デルタロギスが耳を劈くような声を上げ、空気が震えた。
その声には何らかの魔術でも含まれているのだろうか、ロミオの放った竜巻が、掻き消えたのだ。
「な……なんて、ことだ……」
ロミオの声は掠れていた。その瞳は、恐怖に染まっている。皆も、同じ思いだった。
全員で、最大限の力で攻撃をしたのに関わらず、デルタロギスには、傷一つ、付けられないのだ。
デルタロギスに挑む者たちの顔は、曇りかけていた。
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