216 魔王オデッサ 後半

 クルミは唾を飲み、歯を食い縛ってオデッサを睨む。


 ――何もしなくてもやられるなら、攻撃する!


 クルミは短剣を取り、オデッサに幾度もそれを突き出す。オデッサはクルミの腕を掴み、鎌を振った。


 クルミは、逃げられない、と、と痛みと恐怖に顔を歪めたが、鎌は振り下ろされることはなく、その時、すぐ傍で声がした。


「おい、まだ、終わっちゃいねーぞ」


 いつの間にか、ツバキがオデッサの背後にいて、彼女の肩に手を置き、もう片方の腕で鎌をぐっと掴んでいた。


 ツバキは顔色が悪く、よろよろとして、今にも倒れそうだった。オデッサはにやりと笑み、面白い、と、クルミからツバキの方に顔を向けた。

 

「貴様はもう、動けんだろうが――」

 オデッサが目前のツバキに注目したので、ツバキは、もう標的は自分に移ったと認識し、鎌から手を放した。 

 オデッサはまた一歩ツバキに近づくと、ツバキの緋色の眼が、燃えるように光った。


「……ああ、ほとんどな。だがな、てめえを倒すくらいは、してやる」

 

「クルミ、離れろ」

 と言ったツバキは、オデッサの両肩を掴んだ。


 クルミは一瞬呆けたが、すぐに、ツバキのいう通りに彼らから距離を取る。

 オデッサはツバキの手を払おうとするが、なぜか、びくともしない。


「喰らいやがれ……!」


 ツバキの体が、急激な熱を帯びていく。

 ツバキの体の表面は、五十度、百度……、と、更に温度は上昇していき、僅か三秒後には、千度を超えていた。

「ぎ……ぎゃあっ!!」


 ツバキに掴まれているオデッサの腕が、火傷と熱で酷い痛みを与え、オデッサは叫び声を上げた。

 ツバキは、にやりと笑んでいた。

 ツバキの体は炎と熱に覆われ、青い光に満ちている。

 酷い傷を負っていながら、その光の中で笑むツバキを、オデッサは、初めて恐ろしいと感じた。



 ――有り得ない!!

 幾ら神の力を得たとは言え、人の身で、これほどの熱に耐えられる訳がない!!



 オデッサの顔が、恐怖に歪む。


 オデッサは焦り、慌ててツバキの腕を外そうとする。

 オデッサは魔術で空中に鎌を浮かばせ、その鎌を操ってツバキを切ろうとした。


「もう、遅いぜ……、〝業火の刃ヘルファイア〟!!」

 

 ツバキは、残った体内のエネルギーを振り絞り、全ての炎の力を発動させる。


 その途端、ゴウウウウウ……、と、ツバキの体から、

炎がうねり、噴き出した。


「うあああああ!!!」

 

 ツバキに繋がれたオデッサに、業火の炎が移り、彼女の体を燃やしていく。


 ツバキは燃えはしないが、その巨大な炎を作り出すのは相当体に負担がかかるようで、オデッサの隣で、彼はぜいぜいと荒い息を吐いている。



 ――オレの全ての力を懸けて、こいつを倒す。

 それが、神から力を得たオレの役割だ。


 サラ……、それが、正しいんだろ?



 ツバキの体から放たれた炎は、激しく、凄まじく燃え盛り、女魔王、オデッサを燃やしていた。


 それでもまだ、オデッサは生きている。

 炎の中で、オデッサは痛みを堪えてツバキを殺そうと、片方の腕を伸ばす。


「止めは、刺す……!」

 

 炎の中のツバキが、手甲を嵌めた腕を突き出した。


 青い炎の中で、女魔王オデッサは、その身と共に、命を燃やし尽くした――。

 





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る