215 魔王オデッサ 前半

 オデッサは口の端を異様なほど持ち上げ、美しい顔を崩して不気味な笑みを作り、今度は空間から巨大な剣を取り出した。

 

 その剣は、オデッサが構えるとぐんぐんと先が伸びていき、十メートルほどに変化した。

 

「やあっ!!」

 オデッサは叫び、巨大な剣を片手で振り、頭上から振り降ろす。

 近くにいたネオ、ダン、クルミは慌ててその攻撃を避けたが、巨大な剣が地面に叩き落とされると、地面はバコッ、と数十メートルも割れた。


 そのとんでもない力を間の当たりにし、三人は、背筋が凍る。

 

 オデッサが更に立て続けに攻撃を仕掛けようとするのを確認すると、ネオが、折れた剣を抜く。すると、びしびしという音を立て、折れた刀身が再生し、氷の剣が作り出された。


 どうやら、石を持つ者は神具の力を得たことで、新たな能力を得たようだ。

 ネオは、氷の剣を両手で強く握り、最速の剣舞でオデッサに切りかかった。

 オデッサはネオの速さに驚いたものの、避けることはなく、ネオの剣を素手で止めた。

 ぐぐ……、とネオは剣を押すが、剣はびくともしない。

 オデッサはわらった。


「ふふ、非力だな。お前は本当に神の選んだ末裔か?」

 

 薄く笑うオデッサは、ネオを蹴り上げた。

 ネオの息が、一瞬詰まる。


 ネオは避ける術もなく飛ばされるが、ダンが受け止め、二人は、地面を勢い良く滑った。オデッサに蹴られたネオは、数本骨が折れたようで、すぐには立ち上がれなかった。


 二人が飛ばされると同時に、隙をついてクルミが前に出て、お返しとばかりにオデッサに蹴りを繰り出す。

 彼女の足は、オデッサを蹴り上げる時、堅い土でできた防具がクルミの足全体を纏っていた。

 

 クルミはスピードを最大限に上げ、鋼鉄よりも硬い土を纏って攻撃をしたので、その破壊力は凄まじい。

 流石のオデッサでも避けられず、クルミの蹴りを食らって、よろめいた。

 足を地面に踏ん張り、オデッサは上半身を背後に仰け反らせて、真っ赤な眼でクル

ミを睨んだ。物凄い形相だ。


(ほとんど、効いてない……!)


 クルミは蹴りを食らわせたオデッサが、すぐに攻撃してくるだろうと予想した。

 オデッサは数度クルミに剣を振り下ろすが、クルミは素早く避けるので、オデッサは剣を仕舞う。


 クルミがオデッサの背後に回る前に、オデッサは左の手の平をクルミに向ける。

 先ほどと同じ、小さな火の玉が浮かぶ。


(避けられない――)

 

 クルミがその火の玉に当たる直前、ダンとネオが彼女の前に身を乗り出す。

 

 ネオは氷の盾を作り出し、ダンは、クルミを抱えてネオの盾の内側に入る。


 火の玉が盾に接触すると盾がびしびしっと割れた。

 玉は盾を貫通し、三人の目前に迫った。


 ダンは力を込め、鎌で小さな玉を叩く。

 玉は、ダンに叩かれ、空を飛んでいく。

 十メートル程離れたところで、玉が光り、爆発した。

 

「ダン!!」

 クルミが叫んだ。


 玉の一番近くにいたダンは爆発に巻き込まれ、体が弾かれた。先ほどと同じに見えたが、どうやら火の玉の威力は落ちていたようだ。

 

「くそ、せめて、もう一発当ててやる!」


 爆発に巻き込まれ火傷が酷く見えるが、盾のお陰でダンは動くことはできたので、力の限り、オデッサに鎌を振り下ろす。


 ダンの力は神の力を得て、更に腕力が増しており、オデッサの硬い体から、血が噴き出す。だがやはり、深い傷にはならない。


 オデッサは近くにいたダンを掴み、思い切り殴りつけた。ドガッ、と、地面に叩きつけられ、ダンは、動かなくなった。


「ダン!」

とクルミが叫ぶと、オデッサは今度はネオとクルミの元へ走り、ネオを再び蹴り上げた。

 防御の体勢を取ったので、生きてはいるが、痛みと傷でネオもまた、体を動かせなくなった。


 オデッサはようやく満足して冷静さを取り戻し、その場に残ったクルミに、再び取り出した鎌を向けた。




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