214 ツバキ・ガーディア

 ツバキの操る炎は、炎の神のように、膨大で凄まじい火力を誇る。他の、選ばれた者とはその強さはまるで異なる。それを、仲間たちも何となく分かっていた。

 

 ツバキは、自らの力が他の者に比べ過多である理由を、知っている。

 数年前、炎の神ライザから初めに力を授けられた時、ライザと共鳴した。

 恐らくそれがあって、ツバキの体内に、ライザの力が必要以上に流れ込んだ。

 そして再び力を授かった時、ツバキの最大値はライザと同等へ引き上げられたのだ。


 ライザとツバキは、あまりにも似ていた。

 顔立ちも性質も、有り方も、力の原動力も。

 よって、その現象が起きた――。

 

 イーシェアも、ツバキと同じように神と同等の力を持つが、彼女は元々、水の女神から作り出された者なので、大きな力を持つ理由は異なる。

 


 ツバキの体は赤い光に満たされ、髪の毛は逆立った。

 ツバキが、更に強い炎を纏った手甲を装備した拳をオデッサに突き出す。

 オデッサはそれを空中で避けた。オデッサは巨大な鎌を、ツバキの腰を目掛けて、ぶん、と大きく振った。


 ツバキは素早く反応し、横に回転して避ける。しかし続け様にオデッサは鎌を再び振ると、ツバキは腕を盾へと変化させた。


「凄いですね……あんなことまで!」

 ネオはツバキの戦いぶりを見て感嘆する。


 ツバキは、ほとんど、炎の神と同じことができた。

 オデッサとツバキは、火花を散らして、風のような速さの攻防を繰り広げていた。


 ツバキに加勢したいが、オデッサとツバキは息もつかせぬ戦いを繰り広げ、彼らの間に割って入れる隙がなかった。


 ドン……ドン……、ドゴッ!!

 と、彼らがぶつかる度に、周囲の空間や地面に衝撃が伝わり、小刻みに震える。 


 暫くの攻防の後、オデッサは、ツバキと距離を取る。

 ツバキは、オデッサが人差し指を前に突き出したのを見て、しまった、と思った。

 それは彼の本能だ。

 

「〝憤怒の炎アンガーフレイム〟」


 オデッサが言うと、その指先から、小さな火の玉が飛び出した。およそ二十センチほどだろうか。だがその小さな玉を見て、ツバキは恐怖する。

 その玉は、全てを焼き尽くす――。


 ツバキはそれを避けようとした。幸い、その玉は避けられるスピードだ。

 しかし、彼は不意にはっとして、背後を振り向く。

 そこには、メイクール国の城が建ち、その中には多くの人々が避難している。

 

(避けたら、城は吹き飛ぶ……! 避けられねー)

 

 ツバキは、近付いてくる玉を前に、両手を重ねて突き出す。するとツバキの前に巨大な盾が、出現した。


 オデッサが怪しく笑む中で、玉は盾にぶつかる。

 玉がぶつかると、巨大な盾にぐんぐんめり込んで行き、盾が、バキッ、と割れた。


 玉はそのままツバキに触れ、爆発を起こした。

 爆発の瞬間、ツバキは自分の炎を周囲に張り巡らせ、バリアを張り、衝撃を抑え込む――。

 だが、彼自身には、爆発の衝撃は伝わった。

ツバキは爆発の中、腕を交差させて顔を庇ったが、後方へ吹き飛び、城に激突した。しかし城の方は、ツバキのお陰で無事で済んだ。


「おい、ツバキ!」


 爆発が納まり駆け寄ったダンが倒れた彼を見ると、腕の片方が酷い火傷で赤黒く変色し、服も焼け焦げ、顔も、半分ほど火傷を負い、痛々しい。


「ツバキ、大丈夫?!」


 倒れたツバキにネオとクルミも近づき、クルミが呼びかけると、ツバキは、ゲホッ、と咳をして、ゆっくりと体を持ち上げる。

 返事は出来なかったが、ツバキは頷く。


 ――いてえ……。


 ツバキは、体がばらばらになったような気がしたが、何とか、立ち上がる。

 

「……あの女魔王……。あんな魔術使いやがって、反則じゃねーかよ……」


 途切れ途切れではあるが文句を言うツバキに、ダンたちは、ほっとする。


「ツバキ、どう戦えばいい?……多分、あたしたちの攻撃はあの女には効かない」

 クルミが訊ねる。


 その間にも、オデッサはツカツカと、ゆっくりとこちらに近付いて来るが、すぐに攻撃を仕掛けはしなかった。戦いを遊び、楽しんでいるのだ。


「……いや、動きで翻弄して、三人で掻き回せば、攻撃は当たるし、例え倒せなくても、傷も負う。止めは、オレが刺す」

 ツバキが三人を見て言った。


「その体で、あの魔王を倒せる力を出せるのですか?」

 ネオが眉を潜めて訊くと、

「ああ、約束する。けど、当たらなきゃ意味がねーから、お前らが、隙を作ってくれ。今のオレじゃ、素早く動けねーから」

 と、ツバキは緋色の眼に光を宿した。

 その眼に、やり遂げるーという、強い意思と覚悟が、読み取れ、三人は顔を見合わせた。


「オッケー。じゃあ、それに賭けよう」

 クルミが少し笑顔を見せると、

「仕方ねえな」

 とダンがいい、ネオも頷いた。


 ネオ、ダン、クルミの三名は、再び武器を取り、ゆっくりと近づいて来るオデッサを見据えた。



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