213 オデッサとの戦い

 セシルとノエルは、海の底の奥深くの洞窟にいた。

 セシルはノエルの前に立ち、人型のノエルは、セシルの額に、手を触れている。

 

 光が、セシルの額を照らしている。

 セシルはノエルから力を受け取っているのだ。だがノエルの力は大きい。力を受け渡すまで、まだ時間がかかる。


 地上――、メイクール国では、魔王と人間たちとの戦いが始まったようだ。

 


 ――何とか、間に合うか。私が死ぬまでには……。


  

 ノエルは手をセシルの額に触れ、思う。

 そのセシルは、抱えきれないほどの力を渡され、意識を失っていた。



 ――人間たちよ、頼むぞ。オデッサとデルタロギスを倒してくれ。そうでなければ、全ては台無しだ。


 再びノエルはセシルの方をじっと見て、意識を集中させた。



 巨大な風と雷、雷撃の旋風サンダーワーウインドにクルミとダンはぶつかると、二人の体には電気が走り、痛みと痺れに襲われた。

 ダンは咄嗟にクルミを庇ったが、それでも雷撃はクルミの体も撃ったー。撃たれた二人は次に旋風に飛ばされ、二人の体を、クルミはネオが、ダンはツバキが受け止めた。ダンとクルミの体は、火傷の跡が痛々しいが、二人の命に別状はなかった。

 

「クルミ、大丈夫ですか?」

 ネオがいうと、クルミは頷き、ありがと、と痛みを堪えて小さく言った。

 衝撃の痛みもそうだが、痺れが酷く、クルミはゆっくりとネオの腕から降り、オデッサを見据える。


 オデッサは鎌を仕舞い、両手を上げる。


 まだ、オデッサの放った魔術は生きている。〝雷撃の旋風〟はオデッサの手の動きに合わせ、ウォンウォンと唸りながら、クルミたちに向かって巨大な旋風となってやって来る。

 

 体の痺れが抜けず、素早く動けないクルミを庇うために、ネオはオデッサが魔術を放つ前にオデッサに向かって走った。


「剣舞、〝疾風〟!」

 最速の剣で、オデッサの首元を狙う。


 バキッ!!

 オデッサの首に振り下ろされたネオの剣は、真っ二つに割れ、剣の先が弾き取んだ。


(な……!)


 ネオが驚きに目を見開くと同時に、オデッサはネオの首をぐっと掴み、締め始める。


「私の首を狙うとは、なかなか度胸がある」


 ネオは、とてつもない力で絞められ、動けなくなった。

「褒美に、お前を一番初めに殺してやろう」

 オデッサの甘美な囁きが、ネオの耳に、まったりと絡みつく。

 オデッサは死神のような顔で、ネオを絞めているのとは反対側の手の爪先でネオの胸元を貫こうとする――。

 

 バシュッ。

 その風切る音の後、ネオの首を絞めていたオデッサの腕から血飛沫が舞った。


 痛みと痺れを堪え、体勢を立て直したダンが、鎌をオデッサの腕に振り下ろしたのだ。

 ダンは体の痺れが抜けると、痛みを堪えて気力で鎌を振った。

 ダンの鎌がオデッサの腕を傷付けることができたのは、彼女の首と腕とでは硬さがまるで違うからだった。


 オデッサは血に塗れた自分の腕を見て、わなわなと震えた。


「おのれ……、この、塵芥じんかいども!」

 オデッサは目を血走らせ、鎌を片手に持ち、風を切って、傷を負わされたダンに迫った。

 ダンは咄嗟に自分の鎌で防いだが、オデッサの力で弾き飛ぶ。

 

 クルミはオデッサが一瞬気を緩ませた隙に、短剣を素早く構え、オデッサの心臓に向けて放つ。

 クルミは素早さの段階を最高に上げていたが、短剣は、オデッサの心臓を通らず、ガキッ、と乾いた音がしただけだ。

 

(刃が通らない! やっぱり、急所は護りが硬い……!)


 オデッサは、今度は胸元までにきたクルミに、太く長い爪で刺し貫こうとする。

 ダンもネオもそれを止めようとするが、距離が開き、間に合わない、と思った時、ボウウウ、と巨大な火炎が迸り、オデッサは腕を引っ込めた。


 激しい炎がオデッサを包み、服や体のところどころが燃えていく。

 オデッサは燃やされながらも腕を伸ばして、水の魔術を発動し、自分の体に水を巻き付け、炎を消化した。


「もう一人いたか。炎を操れるとは、大層な能力だな」


 オデッサはツバキを見て、値踏みするように言った。


 ツバキはサラを失ったショックのために、集中力や気力が欠如したようにも見える。――が、じっとオデッサを見て、

「ここはお前らが住んでいい場所じゃねーんだ。早く、消えろよ」

 と言い、彼は体の周囲に炎の光を纏わせた。


(今は、悲しんでいる場合じゃねー。奴らを始末し、国に入り込んだ魔物も何とかしなくちゃいけねーんだ)


 ツバキは無理やり、頭から悲しみを振り払う。


「うらあっ!」

 ツバキは炎を一瞬の内に膨大に変化させ、右手を握り、オデッサに向かって走り、拳を突き出した。




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