184 高位魔族との戦い・ウォーレッド第二帝国4

 

 サラは爪の剣を手にツバキに挑みかかった。

 素早いサラの動きを、ツバキは読み、避け続ける。サラは徐々に速さを上げていき、ツバキは息を切らし始める。

 サラは爪の剣での攻撃を続けているが、ツバキにその攻撃が当たるとは思っておらず、様子見程度に、剣を振り続けていた。

 

 サラは少し後ろに下がり、爪の剣を戻し、片腕を前に伸ばす。次いで、もう片方の手は弓を引くような格好を取り、

「〝土の矢ソイルアロー〟」

 弓を引く手をぱっと放すと、土でできた、茶色い矢が放たれた。


 矢はビュッ、と風を切って飛んでいき、ツバキの足に刺さった。

 ツバキは顔をしかめ、矢を抜くが、間を開けず、サラは次々に土の矢を射ってくる。

 ツバキは矢を何とか避けるが、足に当たったせいで動きが鈍り、また二本、腕と足に矢が刺さった。

 くそ、とツバキは毒づく。


(このままじゃやられる……!)

 

「分かったよ、サラ。本気でやってやる。けど、死ぬなよ」

 ツバキが言うと、サラは、ふふ、と笑みを零した。

 

 ツバキは左手に嵌めたクローを構え、駆け出す。

「烈炎拳!」

 ツバキが石を光らせ右腕を繰り出して叫ぶと、炎が拳から飛び散った。


「〝土の盾ソイルシールド〟」

 サラの目の前に、一瞬の内に土でできた盾が出現し、ツバキの拳を防いだ。


 ツバキは僅かに怯むが、続け様に、クローを嵌めた左手で幾度も攻撃をする。

 足に矢が刺さったとは思えない、素早く力強い動きだった。


 ツバキが攻撃をする度に、クローから、ぼうう、と炎の尾が引いた。

 サラは今度は爪の剣を出し、ツバキの攻撃を受け止めた。二、三度攻撃を受け止めると、彼女は力を込め、剣を振った。

 ガキイイ!!


 ツバキはサラの攻撃に、吹き飛んだ。

 サラは吹き飛んだツバキに向かい、またも土の弓矢を放つ。五本の矢が次々にツバキを襲う。


 ツバキは、避け切れない、と、向かってくる矢の方角に、両手を突き出し、

「爆炎拳!!」

 叫ぶと、周囲をうねるような炎が噴き上げ、周辺、二十メートルほども爆発し、ツバキに向かった矢と共に、吹き飛んだ。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    

「ツバキ、それじゃ駄目よ。敵は確実に仕留めないと――。まだ、詰めが甘い!」


 爆風の中から現れたサラは、服をところどころ燃やし、顔も火傷をしながらも、走り、ツバキに向かって剣を突き出す。

 その剣は、ツバキの脇腹に、ズッ……、と吸い込まれた。


「……くっ……」

 ツバキは脇腹を刺され、呻くと、サラから距離を取った。


 動いた拍子に、脇腹からは血がぼたぼたっと垂れ、ツバキはその痛みに顔を顰めた。

 

「サラ……」

「私があなたを殺さないとでも思ってたの?」


 サラの黒い瞳は、冷たく鋭い。

 ツバキは脇腹を押さえ、美しいが、別人のようなサラを見返す。

こんなサラは初めて見る、とツバキは思った。


(サラ、本当にお前は、オレを殺す気か? 魔王の手先になっちまったのか……?)

   


「昔を思い出すわ。私がツバキの村を救った頃、私が、あなたを鍛えたことがあったわね」

 サラが懐かしむように言った。

 ツバキは息を整え、真っすぐに立つ。ツバキは左手で脇腹を押さえて皮膚を少し焼き、血を止めた。


「オレ、サラが分かんねーよ。何で、人間を救っておいて、地上に魔王なんか呼び出そうとするんだ! 魔王が現れたら、この世界は、終わるんだ……。サラが救った奴らも、オレも、生きてられるか分からねーのに……」

 

 サラは悲しい顔をしたが、それについて何かいうことはなかった。彼女は再び剣を構えて、走り出す。


 ガツッ!

 ツバキは神具のクローを構え、向かって来たサラとまみえる。互いの武器がぶつかり、火花が散った。

 サラは力が強く、ツバキは押されそうになるが、今度は石を光らせ、何とか堪える。

 ツバキのクローからは炎がぼうっと光り、ツバキがクローを振るう度に炎が走るが、サラは無表情のまま、戦い続けた。


「……本当に凄いわツバキ。深く刺したのに、こんなに動けるなんて。この戦いは楽しいけれど、私にはやることがあるから、そろそろ、決着を付けさせてもらうわ」


 一度後方に引いたサラは、腕についたツバキの血をぺろっと舐めた後、再び挑みかかって来る。

 

 ツバキは覚悟を決めた。

 これまでの攻撃ではサラには通用しない。サラは自分を殺そうとしている。それなら迎え撃つしかない。

 

蛇操炎拳じゃそうえんけん

 ゴウウウ、と燃え盛る、蛇のようにうねる炎がツバキの拳から生まれた。ツバキは腕を左右に振って炎の蛇を操る。

サラは両腕を真横に伸ばし、両手に爪の剣を作り出す。


「サラ、こいつをまともに食らえば、いくらお前でもただじゃすまねー。魔術を使えよ」

 ツバキがいうと、サラは肩を竦めた。

「私の魔術じゃ、多分ツバキのその術には効かないわ。――心配しなくても、大丈夫。私はツバキより強いし、ツバキには殺されないから」


 サラはそう言い、高く、飛び上がった。

 ツバキは飛び上がったサラを見上げ、腕を動かし、炎の蛇を上空に飛ばす。

 

 上空から、サラの長く伸びた爪が勢い良く降って来る。ツバキは殺気を感じ、爪を避けるが、それは伸びたり縮んだり、増えたりし、長く、太く大きくなり、追って来る。

 避けた地面に突っ込んだ爪の剣は地面を割り、地面は穴だらけになっていた。

 ツバキは必死に爪の剣の攻撃を避けるが、動きを把握し切れない。ツバキは技を発動させており、爪に集中する訳にはいかなかった。


 激しく動いていると、さっきサラに刺された脇腹が、酷く傷んだ。血止めはしたが、このまま動き続ければまた傷は開き、危険だ。


(爪が邪魔で、サラの動きがよくわからねー。これじゃ、術が当たらねーな)

  

 炎の蛇は、サラを追いかけるが、サラは爪を操るだけではなく、自らも、飛んだり避けたりし、余裕を持って、炎の蛇から逃れている。

 サラは飛びながら爪を両端に伸ばし、左右から、ツバキを狙う。

 ツバキの反応が一瞬遅れた。


「もらったわ、これで終わりよ!」

サラは叫ぶが、ツバキは冷静にサラを見ていた。


「ああ、そうだ。これでお終いだよ、こんな戦いはな!」

 

 ツバキが腕を振るうと、炎の蛇が掻き消えた。


(炎の蛇が、消えた……? どういうこと?)


「サラ、オレの勝ちだ」


 ツバキがいうと、消えていた炎の蛇は、突如幾つも現れ、サラの周囲を取り囲んだ。炎の蛇たちは、一つ一つは炎の大きさは小さく、威力も弱いと思われた。

 

「これは……術を分裂させたの?」


 サラは、周囲を取り囲んだ炎の蛇の群れを見る。

 

(ツバキは反応が遅れた訳じゃなかった。あれは、油断させるためにわざとー……!)

 

 気付くと、サラの腕や足、体に、次々と炎の蛇が絡みつく。


 サラはすぐに魔術を発動させようとした。だがツバキの反応の方が早かった。

 ツバキは空に浮かぶサラをじっと見ると、開いていら手の平を、ぐっと握った。

 すると、サラに絡みついた炎の蛇たちが、一斉に爆発した。

 

「く……ああっ……!」


 一つ一つは小さな威力でしかない炎の蛇の爆発は、一斉に爆破したことで、凄まじい威力の炎と爆風が巻き起こった。

 爆風に煽られ、サラの体が空中から急降下していく。

 サラの体や服から煙が上っていた。


「サラ!!」

 

 ツバキは落ちて来たサラの体を、高くジャンプし、受け止めた。


「サラ、大丈夫か? 死ぬなよ」

 腕に抱いたサラの顔を、ツバキは覗き込む。


 サラはボロボロの服を纏い、火傷の傷も酷かったが、笑みを見せた。


「威力を、下げていたのね。相変わらず、甘いわね……。だけど、勝ったのは、私よ」


 サラはツバキを突き飛ばして彼の腕から飛び降り、距離を取ると、腰に差した剣――、〝開放の剣〟を抜いた。




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