181 高位魔族との戦い・ウォーレッド第二帝国1
「やっぱり、私の邪魔をするのね、ツバキ」
サラは、その艶やかな黒い瞳でツバキを見据えていた。その眼にも、話し方にも、覚悟のようなものが見て取れる。
「サラに死んで欲しくねーんだ。だから、頼む、考え直してくれ。魔王なんか、放っておけよ」
ツバキはぐっと拳を握って懇願する。
「……それはできないわ。あの方は、希望なのよ。私にとっても、闇色の瞳の種族にとっても。あの方を救えるのは、私だけ。私は命懸けで、あの方をここへ呼び込む――」
サラの答えで、ツバキもまた、一つの覚悟を決めたようだった。
「それなら、オレは止めるだけだ。サラが馬鹿な真似をしねーようにな」
「止める? 無駄よ。私を止めたければ、殺すしかないわ」
サラが片眉を上げ、聞き分けのない子供を諭すように言った。
「お前を殺さねーし、死なせねーよ。オレの命の恩人だからな」
「助けてくれなんて頼んでないわ。ねえ、ツバキ。もっと大人になりなさいよ。高位魔族を殺さずに止めるなんて、そんな甘い考えが通る筈ないじゃない」
サラはそう言い、体勢を低くし、片腕を前方に伸ばして爪の剣を真っすぐに構えた。
もう一人の魔族――、ジュニアスの方は、サラの近くに三人の人間が現れても、一向に向かって来る気配がない。
ジュニアスは、サラたちには一切関わりを持たぬと言った様子で、彼は右手の中指と人差し指を重ねて立て、口元へと持っていく。
目を閉じ、集中して何かを呟き始めた。
(呪文を唱えている……?)
その様子に気付いたクルミは不審に思った。
――あの男を放っておくのは、危険な気がする。
そう思ってクルミはツバキの方を見るが、彼は視線をサラから一切離さない。
(サラはツバキに任せて、あたしはあの男魔族と戦う)
クルミはダンの方をちらと見ると、ダンはその意味に気付いた。クルミがジュニアスの方へ飛び立つと、ダンもその後を追った。
「ジュニアス、そっちに人間が行ったわ!」
サラが叫ぶと、ジュニアスは黒い煌々とした目を開いた。
クルミはジュニアスの前まで来ると、一度着地し、じっとその魔族を見据えた。
短剣を構え、クルミは、
「一段階……」
そう呟き、腰を低くし、片足を後ろに引くと、ふう、と息を吐く。
ドンッ!
その刹那、クルミの地面を蹴る音が鳴り、彼女はジュニアスの方へと飛び出していた。
その速さは目にも止まらぬほどで、ダンが瞬きをする間に、クルミはもう、ジュニアスの目の前にいた――。
クルミはジュニアスに向かって短剣を振った。
ガツッ!
短剣が見えない壁にぶつかり、刃がジュニアスの元まで届かなかった。
クルミは一旦その場から距離を取る。
(何かにぶつかった……?!)
その刹那、ジュニアスのいる場所を中心として、地面が円形に光った。
円形の中に六芒星が見え、その真ん中に、ジュニアスが立っている。
「これは……何?」
クルミは驚きながら六芒星とそれを包む円形の光を見つめた。
「クルミ、どいてろ!」
ダンが叫び、横から鎖鎌の鎌をジュニアスに向かって投げる。
ガガン!
先ほどと同じく、衝撃音は響くが、やはり鎌は円形の光の中へは通らず、弾かれた。弾かれ、戻ってきた鎌の柄をダンはパシッと掴み、舌打ちした。
(これ……結界のようなもの?)
クルミは考える。
物理的な力でこの結界らしきものを壊せないのならば、今のクルミたちには手も足も出ない。
なぜなら、クルミの持つ神具、〝飛翔の靴〟には、飛翔と、速さの段階を上げる以外に、特別な能力はないからだ。
(もっとスピードを上げて攻撃することもできるけど、結界を壊すだけに体力を使うのは得策じゃないか……)
「ダン、あいつが不審な動きをしたら教えて! あたしはツバキを連れて来る!」
クルミがダンの方を向き叫ぶと、ダンは、分かった、と返事をした。
クルミはその場からすぐに飛び、僅か数秒後には今にも攻撃をしそうなサラと、その前のツバキのすぐ背後へと回った。
「ツバキ、あの男魔族、何か呪文を唱えてる。なんか、良くない気がする。あたしの力じゃどうしようもないから、あいつを止めて!」
ツバキはクルミに気付いていたが、顔は正面のサラを見ながら、耳は傾けていた。
「良くないって、どういうことだ? 何でそう思うんだ?」
「何となく、だけど……でもあいつ、何か特殊な魔術を使うんだと思う。サラと一緒にいることも考えると、もしかしたら、魔王を召喚する準備をしているのかも――」
ツバキはクルミが言ったことに顔をようやく彼女へと向け、眉を潜めた。
「十中八九そうだろうな。仕方ねー。オレがそいつを止めるよ。クルミ、サラを何とかしろ。殺すなよ」
「やってみるけど――」
クルミが不安を覗かせツバキに言うと同時に、ツバキはその場から去ろうとした。
「ツバキ、行かせない!」
サラが立ち塞がり、駆け出してツバキに向かって爪の剣を振った。
ビュッ!
剣はツバキの鼻先を掠めたが、彼は後ろにジャンプしすんでのところで避けた。
ツバキはクローを嵌めたのとは逆の方―、右手で拳を握り、サラの腹部に向かって突き出す。
サラは咄嗟に左腕に盾を作り出し、防いだ。
「サラ……!」
ツバキは奥歯を噛み締めた。
「流石に、ツバキと、もう一人石を持つ者を相手にするのは分が悪いわね」
サラは爪を戻し、腕を縦と横に交差させた。
「私も魔術を使うわ。私が扱う魔術は特別なものじゃないけど、この〝土の魔術〟は、複数を相手にする時に便利なのよ」
「〝
サラが呟くように言うと、彼女の足元の土が、めこめこ、と膨らみ、集まっていく。それらはおよそ二メートルほどの高さにまで膨れ、手や足が作られ、人型に変化する。
「
戸惑う二人を他所に、サラは迷うことなく、クルミを指し、作り出したばかりの人形に命じた――。
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