176 高位魔族との戦い・メイクール国1
カルファは、アルに今まで向けたことがない、殺意に満ちた赤茶の瞳をしていた。
「残念ですよ、アルタイア様。あなたを気に入っていたのですがね!」
カルファは言って、腕を前に伸ばす。
「
アルに向かってカルファは手を伸ばし、アルは、その魔術は見えない手で掴まれると知っていたので、後ろに下がった。二人の間には大分距離が開き、その闇の魔術の攻撃範囲を逃れられたようだ。
アルは後方に引くと同時に、カルファに向かって十字剣を投げた。
十字剣は不規則な動きで飛び、カルファは予測不能な動きを目で追うのがやっとのようで、翻弄されている。
おのれ……、と声を漏らし、カルファは、拳を握り、力を込め始める。
アルの瞳が大きく見開かれる前で、カルファの姿は、背中から三本の角が生えた、三メートル程の大きな魔物のような姿となった。
魔物姿となったカルファの横を十字剣が通り過ぎ、アルの手元に戻ってくる。
アルは十字剣を掴み、暫し、カルファの姿に茫然とした。
「王子、下がってください!」
剣士アーサーがアルの前に出て、腕を横に伸ばす。
アーサーは剣を構え、唸り声を上げ、果敢に、大きな体躯のカルファに向かって行く。
「待て、アーサー、無闇に近づくな!」
アルはアーサーを制したが、既にその長剣はカルファを捕らえようとしていた――。
しかし、刃がカルファに届くことはなかった。
アーサーはカルファに殴りつけられ、その場に膝を付いた。
「う……くそ……」
呻き、衝撃に動けないアーサーに、カルファは長い爪の腕を突き出す――。
そこへ、アルの投げた十字剣が、カルファの腕にぶつかり、弾き飛んだ。
魔物姿のカルファは、人型よりも丈夫だが、十字剣はその材質のほとんどがブラッククリスタルによって出来ているため、十字剣の刃はカルファに傷をつけた。カルファは腕から多くの血を流した。
その拍子に、アーサーの体は投げ出された。
ひとまず無事な兵士の姿を確認したアルは、弾き取んだ十字剣を掴もうと走り出す。そこへ、カルファの太い腕が伸び、アルを掴んだ――。
もう一方の魔族シュナイゼは、長剣を手にし、弓使いのイルマに挑みかかった。
イルマは接近戦は得意ではない。短剣を装備しているが、数度打ち合っただけで、彼女は倒れ、その体に、シュナイゼは剣を突き刺そうとした。
その時、ロゼスが割って入り、イルマの代わりに槍で反撃を始める。
ロゼスは石の力を発揮している。そうしなければ、シュナイゼの攻撃についていけなかった。
ガキッ、ガキッ!
ロゼスとシュナイゼの武器がぶつかる音が響く。
だがロゼスは、このまま攻撃をしても、またシュナイゼが闇の魔術をかけられていれば、攻撃は通じない、と考えた。
(指輪の力を発動する――)
とロゼスが思った時、シュナイゼの体からはロゼスがつけた槍の傷口から、血が流れた。
(槍が傷を付けた……! シュナイゼは今回は闇の魔術を施されていない。なぜだ……?)
ふと、ロゼスは気付く。
ちらとアルたちを見やると、十字剣での攻撃がカルファを傷付けている。
(もしかすると、ブラッククリスタル製の武器での攻撃ならば、闇の魔術をかけられても、傷をつけられるのか?)
思い返せば、前回この者たちと戦った時、ロゼスは槍で攻撃したが、その攻撃は敵に当たってはいない。
勝てる、とロゼスが一気に攻め込もうとした。
石の力は長くは持たない。
ロゼスが攻撃を受けている間に、イルマが立ち上がって体勢を整えた。
ロゼスの攻撃によりシュナイゼが僅かにバランスを崩した時、
「今だ、やれっ!」
ロゼスが叫ぶと同時に、イルマが弓を射る。
「指輪よ、魔術を弾く力を弓に!」
指輪が青白く発光する。
その光は、イルマの射る弓矢へと移る。
光る矢がシュナイゼの心臓部に刺さる瞬間、シュナイゼの体が変化を始める。
あの時と同じ、昆虫のような化け物へと。
てらてらとした大きな青い瞳と、長い触覚を持つ、黒い膚の生き物の姿へと。
矢は射られたが、シュナイゼの傷は浅い。
魔術を弾く力を弓に施したが、それでも、弓ではその姿の魔族を倒すほどの力はなかった。
シュナイゼは心臓部に少し突き刺さった矢を抜いて捨てると、駆け出し、長い腕を上部に掲げ、間合いとなったイルマに向かって、襲い掛かった――。
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