174 高位魔族との戦い・ムーンシー国3
炎に巻かれたロミオは、炎の熱と焼けつく痛みを浴び、地面に落ち続けながら、杖の力を使い、体を運ぶ。
ザンッ!
ロミオはそのまま湖まで飛び、体全体を湖の中に沈めた。
炎が消え、ロミオは再び湖の上に上昇する。
そこにドラゴンが追って来たが、ロミオは更に高く舞い上がると、ドラゴンもまた、同じように空を追いかけて来る。
ドラゴンは再び、火を吹いた。
ロミオは空で止まり、振り向くと杖を掲げた。
杖から放たれた風はドラゴンの炎を巻き上げ、熱風となる。
ロミオが真上に掲げた杖の周囲には、ドラゴンの炎を吸い上げた風がごうごうと唸り、巨大な竜巻となって渦巻いている。
「お返しだ!」
ロミオは叫び、杖を振り下ろす。
ロミオの周囲に轟く炎の風が一斉にドラゴンに向かって放たれた。
ドラゴンは一瞬、驚いた顔をした。だがそれは一瞬のことで、ドラゴンはにやっと笑ったように見えた。
ドラゴンは口を大きく開き、巨大な火球を吐き出し、その火球を勢い良く、向かってくる竜巻へとぶつけた。
ゴウウウウウウ!!
火球が竜巻に衝突し、大爆発を起こす。
周囲に大きな炎が飛び散り、竜巻を崩した炎の風が吹き荒れる。
ドラゴンはバサバサと翼を動かし、空に浮いたまま、その場に止まっていた。
爆発や熱風で、周囲が黒煙に覆われ、よく見えないのだ。
だがドラゴンは、ロミオは炎に焼かれただろう、と思っている。その生き物の真後ろから、不意に声がした。
「ダイヤモンドダスト」
ビュオオオオ!!
爆発から逃れたロミオは、黒煙に紛れ体を隠し、ドラゴンの背後を取り、凍らせる風を発動させた。
「……ついでに、ありったけの風の刃だ!」
ロミオは絞り出すように言った。
体中、炎に巻かれ、火傷や痛み、それにずっと石を光らせているので、随分と体力を消耗していた。
本来、動くこともままならないが、負ける訳にはいかないのだ。
周囲を氷の風が包む中、鋭利な刃物の風が、唸り、ドラゴンを切り刻む。
本来、ドラゴンの体は固く、刃は歯が通らないが、ダイヤモンドダストにより部分的に凍り付いた今は、その体に傷を付けた。
(まだだ! 止めを刺す!)
ロミオはフォルスターから銃を抜いた。
ドラゴンは風の刃で傷を負っているが、生命力の強い生き物は反撃の機械を窺っている。
ドン、ドン! ドウン!
続け様に、ロミオはドラゴンに銃を撃った。
心臓部に二発、最後の一発は頭へと。もう銃には玉は残っていない。
ドラゴンは眼を剥き、反撃する間もなく、絶命した。
その巨大な体が地上へ落ちる。
ロミオは自身の体を浮かせ、着地しようとした。
だが既に石は光を失い、杖も反応しなかった。
(力を使い過ぎたのか……?)
ロミオの体は、上空から地上へと落ちていった。
(ジル――)
ロミオは、まだ戦っているであろう少年を思ったが、体がいうことを聞かなかった。
消耗と疲れと衝撃に、ロミオは気を失った。
ジルとネオは、その魔術使いの女が放とうとしている炎を纏った大きく膨れた風を、蒼褪めた顔で見ていた。
「ジル、あれが放たれたら、避けましょう。毒を含んだ風では、どうしようもありません!」
ネオは剣を構えてジルに叫ぶ。
獣姿のジルは、ネオに反論したかった。
(ネオ、そうしたいけど、駄目だ。あれは逃げられない……!)
ジルは本能で悟っていた。
逃げられるような魔術を、ミザリーがわざわざ放つ訳がないのだ。
ジルはネオの目を見て、首を振った。
そして彼の前に立つ。
「ジル、どうして――?」
「ふふ、石を持つ人間よ、その子は頭がいい。この術からは逃れる術はないと、分かっている」
ジルの心を代弁するようにミザリーが言った。
ネオはジルの様子を見て、石を光らせ、剣を横に構えてミザリーに向かって行く。
ネオは最速の剣舞を繰り出そうとした――、が、ネオの前に、獣姿のジルが立ち塞がる。
ミザリーは笑み、その魔術をジルに向けて放つ。
「ジル!!」
ジルの体は、大きな炎の柱の中で燃え盛る。
「が……うあああああ……!!」
風に巻かれて五秒と経たない内に、ジルの体は獣のそれから人型へと戻り、少年は恐ろしいほどの叫び声を上げた。
近くにいたネオはその地獄のような光景に足が竦み、がくがくと腕が震える。
何とかしたいが、どうやったらジルを救えるだろう。
ネオは、薄く笑みを向けるミザリーをキッ、と睨む。
――ミザリーを倒せば、魔術は消えるか……?
ネオの頭にそんな考えが浮かぶ。
ネオは再び剣舞の構えを取る。
「剣舞、〝全霊〟!」
激しく地面を打ち付ける足運びで、ネオはミザリーに向かい、腕を後方へ置き、ぐるりと上に回し、彼女の体を切りつけようとした。
だが、ミザリーは向かってくるネオに怯まず、杖を突き出した。
するとネオの体は、ミザリーの杖から作り出された風により、吹き飛んだ。
ドンッ!!
吹き飛んだネオの体は、風に弄ばれ、くるりと回転し、随分離れたところにあった木にぶつかった。
胸から衝突してしまったネオは、げほっ、と苦しそうに咳をする。
ネオは苦し気な顔のまま、腕で地面をゆっくりと押し上げ、よろよろと立ち上がった。
その間にも、炎はジルを焼き続けている。
攻撃する前に弾き飛ばされたネオは、もうなす
炎に巻かれたジルは、叫び声も上げなくなった。
ジルの瞳は徐々に閉じられ、少年は意識を失いかけ、命の灯をも失おうとしていた。
(オレ……死ぬ……のか……?)
ジルは朦朧とした意識の中で、思う。
(……死にたく、ない。……まだ、いや、だ……)
意識が遠のきかけた闇の中、ジルは強く、そう願った。
その瞬間、ジルを焼いていた炎と風が消え、少年の体を、黒煙が包み込んだ――。
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