55 チュリア村での魔族探し

 翌日、雪はちらついていたがカストラ国の天候としては良い方だった。


「このノーベ村でも一時期は人が急死する事態が続いていたが、今は落ち着いている。代わりに、この村から南に位置する、チュリア村で同じようなことが続いている。十中八九、魔の仕業だろう。よって、これからチェリア村に移動して、魔を探すことにしよう」

 ロミオは朝食の最中、皆に言った。


 パンに噛り付き、パティはちらとロミオを見た。

「魔族をどうやって倒すのですか?」

 パティの問いに、ロミオは腰に取り付けた革製のフォルスターから銃を取り出した。

「これは銃と言ってね、中に鉛の玉を込めて打つけど、僕のは特別性なんだ。玉の成分にブラッククリスタルを混ぜた。これが命中すればほとんどの魔物は深手を負う」


 この世界では銃はあまり出回っておらず、貴重な武器だった。この銃は、資料などを見て、ロミオが自分で作ったものだ。王にも同じものを僅かだが、献上している。

「凄い――」

 アルとパティは興味津々に、小振りだが存在感のあるその武器を見つめた。

「いや、実は、ブラッククリスタルは貴重だから、ほとんど材料がなくてね。玉は僅かしかないんだ。それでも、当たれば、強い魔族と言えど、無事ではすまない筈だ。これで、魔族と対決する」

 ロミオは黒い銃を構えて見せた。


 チェリア村はノーベ村よりずっと大きく、発展していた。しかし王都ほどではなく、種類の多い道具店や大きなレストランなどはない。

 馬車を村の入り口に止め、東と西に別れて魔族を探すことにした。

 パティ、アル、ネオの組みと、ロミオとジルに別れることになった。


「魔族を見つけたら、戦わず、まずは合流しよう。どんな力を持っているかも知れない」

「合流って、どうするんだ?」

 アルが訊ねる。

「村の中心に教会があり、そこに、村中に響く鐘がある。月に二回の集会以外にあれが鳴ることはない。教会には誰でも自由に出入りができるし、丁度いいよ。魔族を見つけたら鐘を鳴らして合図をしよう」

 パティたちは頷き、それぞれ歩き出した。


 しかし魔族の探索は上手くいかなかった。

 朝から村を歩き回っているが、いつしか陽は真上まで登り、やがて西に落ちようとしていた。

 村には幾つかの店と家々が立ち並び、広場や公園もあった。村は思ったよりずっと広く、畑や牧場などを含めると広大で、夕刻前だというのにようやく村を2周し終えたところだった。


「見つからないですね……」

 少しの休憩を挟んだ以外は朝から歩き通しで、パティは疲れ果て、小さなバーの入り口にある階段に腰を下ろした。

 魔の気配はまるで感じられず、パティはここにはもう魔族などいないのではないかとも思った。


「パティ、大丈夫か?」

 アルは座り込むパティの隣に腰を下ろした。

「もう、くたくたです」

「昼に少し休んでからもずっと歩き通しだからな。今日はもう探索を終えよう。ロミオたちを探して来るから、この店に入って待っていてくれ」

 と言って、アルはパティとネオに店に入るよう促した。

 二人は頷き、店の扉を入って行く。だが扉を開くと同時に、パティはあの魔族特有の、重く暗い闇に包まれた。


(魔族の気配……!)

 パティは咄嗟に、後ろにいたネオを扉の外に押し戻した。

「ちょっとパティ、何ですか!」

 ネオは文句を言ったが、パティは神妙な顔でネオと、まだ近くにいたアルを見た。

「ネオ、アル、この中です。ここから魔族の気配がします!」

「この店の中ですか?」

 ネオは訝し気に眉を寄せた。店はさほど大きくなく、酒類や軽食を提供しているバーだった。しかし店には多くの客がおり、騒然としていた。


「よし。確認しよう。パティは後ろからついて来て、どの者が魔族か教えてくれ」

「――はい」

 今度は3人で再び店に入ると、いらっしゃいませ、という若い女性の声がしたが、3人はその声に反応せず、店内を見回し、ゆっくりと歩いた。


 店の中には四角い木製のテーブルが四4つと、カウンター席が5つ並び、雑談している客たちで溢れていた。

 カウンター席で突っ伏して寝入った男の身体を包む、黒い影のようなものを感じる。しかしパティは寝入った男の手を見て驚愕した。それは人の手だ。


(この人、人間? でもどうして魔の気配がするの? メイリンと同じように魂を売った人間なの?)     

 だがメイリンからは魔の気配はほとんどしなかった。

 

 パティは男に近づき、その正体を確かめようとした。

(もしこの人が魔族なら、わたしが天使だと解って何か反応する筈) 


 パティは男の腕にそっと手を伸ばし、触れた。

 すると、突如、パティは闇に身体を捕まれたような感覚がし、びりびりとした衝撃が走った。


(え――?)


 パティの身体は麻痺したように動かなくなり、その場で意識を失った。

「パティ!」

 すぐ前にいたアルが気づき、倒れるパティを抱き留めて支える。

 突如倒れたパティは瞳を閉じ、無邪気な顔のまま、アルの腕の中で気絶していた。

 

 パティは、すでに手放した意識の中で、アルが自分を呼ぶ声を聞いた気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る