第607話「成る程! どれもこれも凄く勉強になりますわ! そうします!」

「……初めての買い物なのに、ヒルデガルドさんは物欲に染まり過ぎず、常識をわきまえています。化粧品店では部下さん達のおみやげもちゃんと購入したし、安心しましたよ」


リオネルの言葉を聞いたヒルデガルドは安堵。


更にハッとし、


「うっかりしていましたわ、リオネル様! 女性用の化粧品だけではなく、男性向けのおみやげも買った方が宜しいのではないでしょうか?」


ヒルデガルドは、普段接しているリオネルの、

『気配り上手』に影響されたようである。


対してリオネルは、柔らかく微笑み、言う。


「はい! 安心してください。それ、考えてます。タイミングを見て、ヒルデガルドさんへ相談しようと思っていました」


「え? 私へ相談? そうなのですか?」


「はい! まず、先に言っておきますが、ヒルデガルドさんが購入した女性用の化粧品は、女性限定のおみやげではありません」


「女性用の化粧品は、女性限定のおみやげではない? どういう事でしょうか?」


「いえ、希望者が居れば女性だけではなく、男性へも『家族、恋人、友人へのプレゼント用』としても渡せますよ」


「な、成る程! 男性から、身内や親しい相手へ化粧品をプレゼントする、そういう融通が利きますか」


「はい、そして、提案です。俺が考えたのは、性別年齢身分問わずのおみやげで、革鎧やローブ等の下に着る男女共用で使える無地の木綿製シャツ、もしくは同じく男女共用で使えるシンプルデザインの木綿製ハンカチーフです。これらをたくさん買おうと思いました」


「な、な、成る程! この店で販売している木綿のシャツやハンカチーフが、性別年齢身分問わずのおみやげですか!」


「はい、使い勝手の良い男女共用で使えるいろいろなカラーの無地のシャツとハンカチーフなら、受け取って嫌がる人はあまり居ないと思いますから」


リオネルの話を聞き、陳列されている商品を見て、ヒルデガルドは納得する。


「で、ですねっ! 納得ですわ! 皆も喜ぶと思います。私はリオネル様のご提案に全面的に賛成します!」


「ありがとうございます、了解です……という事で店員さん、ヒルデガルドさんが試着した服10着をまず別会計で、そして男女共用で使える無地のシャツを、カラーはいろいろで、5サイズ200着ずつ計1,000着、シンプルなデザインのハンカチーフを1,000枚、これらをカラーはいろいろ取り混ぜ、別会計にてお願いします」


しれっと大量発注するリオネルに、店員はびっくり。


「ええええ!!?? そ、そんなにお買い上げですかあ!!」


「はい、購入します。店員さん、お願いする商品の在庫は大丈夫ですか?」


「はっ、はい! ありがとうございます!! ヒルデガルド様がお召しになったお服は全く問題ありませんが、リオネル様がご要望のシャツとハンカチーフはすぐに倉庫の在庫を確認致します! 少々お待ちくださいませ!」


上席らしい平身低頭の店員は部下である他の店員へ指示。

部下の店員は店の奥にあるらしい倉庫へ。


その間、リオネルとヒルデガルド、エステルは再び店内を探索。


試着しきれなかった服を見て回ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


幸いシャツとハンカチーフの在庫はあり、

リオネルは希望する商品を、希望する数だけ購入する事が出来た。


お約束で、収納の腕輪へ搬入すると、

店員達へ礼を告げ、衣料品店を後にしたリオネルとヒルデガルドだが、

衣料品店と同じオーナーの別店がすぐ隣にあった。


そう、女子専用のランジェリーショップである。


ここでリオネルが、エステルへ目配せ。


「エステルさん、打合せ通り、俺は一旦離脱しますから、こちらの店のアテンドは宜しくお願いします」


対して打てば響くという感じで、


「はい! リオネル様! お任せください! しばし、お待ちになってくださいね!さあ! ヒルデガルド様! 参りましょう!」


エステルに先導され、ヒルデガルドはランジェリーショップへ。


リオネルはといえば、店に入らず、少し離れた場所のベンチに座り、待機。

念の為、索敵はMAXで継続。

周囲に不審者が居ないか、さりげない視認も欠かさない。


……約1時間後、ヒルデガルドとエステルは紙袋を提げ、店を出て来た。


「た、大変、お、お待たせ致しました、リオネル様」


「いえいえ、お疲れ様です、ヒルデガルドさん」


「ええっと……いっぱい、買っちゃいました。いろいろと。素敵なものがたくさんありましたので」


頬を赤らめながらもじもじするヒルデガルド。


「良かったですね、ヒルデガルドさん。購入した商品はとりあえず俺の方で預かりましょう」


リオネルは微笑み、紙袋を受け取り、これまた収納の腕輪へ搬入。


「これでよしっと、では、次は住の店へ行きましょうか」


「え? リオネル様、住の……お店ですか?」


「はい、これまで俺が説明して来た衣食住のうち、住……の店です」


「衣食住のうち、住ですか」


ヒルデガルドはそう言うと記憶をたぐる。


「……リオネル様は、おじいさまに連れられ、イエーラへいらしてから、私へいろいろ教えてくださいましたよね。その中でも、衣服と食物と住居――衣食住が、生活をして行く為の基礎であり、ソウェルたる私は、改めて認識し、学ぶべきだと」


「はい、その通りです。イエーラの指導者であるヒルデガルドさんは衣食住の大切さを当然分かっているとは思いますが、人間族の社会を見て、改めて実感すべきだと俺は思いました」


「成る程」


「なので今回の視察旅行では、個人的には衣だと考える化粧品と衣料品店で買い物をして貰いました。次に行くのは住の店です」


ふたりの会話を聞きながら、無言で先頭に立つエステルは、

万事心得ているようであり、歩む足取りに迷いはない。


……という事で、一行がやって来たのは『家具店』である。


「わああっ! いろいろな家具がい~っぱい! ワレバッドへ来てず~っと感じていましたが、やっぱりアールヴ族のものとはデザインが全然違います! どれもこれも素敵ですね!」


広めのフロアには、様々な家具が展示されていた。


机、椅子、長椅子ソファ、ベンチ、テーブル、ワゴン、食器棚、化粧台、

キャビネット、サイドボード、書架、書棚、ベッド、他にも数多ある。


ある一角には、ひとつの部屋を再現したモデルルームもいくつか。


「いらっしゃいませ! 冒険者ギルド家具店へようこそ!」


ここでも数人の家具店店員が一行の案内役となる。


展示してある家具の概要、特徴を説明して行く。


ただ家具店の店員もアールヴ族の家具知識には明るくはなく、コーディネートには自信が持てないとの事だ。


こうなると頼りになるのは、リオネルの『センス』である。


「リオネル様」


「はい、何でしょう、ヒルデガルドさん」


「こちらの家具を自分用にいくつか購入したいのですが、どのように選べば宜しいでしょうか?」


ヒルデガルドから尋ねられたリオネルであったが、質問は『想定内』らしい。


即座に答える。


「ヒルデガルドさんが自分で使うのなら、ふた通りの考え方があります。これまで使っている既存の家具に合わせて買うか、部屋全体を人間族の新しい家具でまとめるか」


「と、申しますと?」


「既存のアールヴ族の家具に合わせるのならば、デザインがベーシックかつクラシックなもの、人間族の家具でまとめるのなら、論より証拠で、実際に見て納得、この店にいくつかあるモデルルームのレイアウトが参考になると思います」


「な、成る程」


「思い出してみてください。ばりばり仕事をするヒルデガルドさんの執務室、オフでゆったりのんびりくつろぐプライベートルームにどのような家具があるかと」


「は、はい! 想像しました!」


「その上で店員さんに奇をてらわないクラシックタイプの家具を尋ねてみてください。頭の中で設置をイメージし、好みの家具をチョイスしましょう」


「分かりました!」


「人間族の家具オンリーのモデルルームは100%その通りにする必要はなく、好みがあれば部分部分のアレンジも可能ですし、それも店員さんへ尋ねるか、エステルさんのアドバイスを貰っても宜しいと思います」


「成る程! どれもこれも凄く勉強になりますわ! そうします!」


リオネルのアドバイスを聞き、笑顔のヒルデガルドは満足そうに頷いたのである。

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