第501話「我はもう100年もの間、待った」
リオネルが見た事もない、謎めいた黒さやの剣は、
『凄まじきお前の力に敬意を表し、先に名乗ろう。……我は、ヤマト皇国で生まれし太刀、ムラマサ。お前が住むのとは、違う異世界から来たのだ』
と、重々しい声で答えた。
剣……ムラマサがしゃべったのは、心と心の会話、念話である。
対して、リオネルも同じく念話で答える。
『ヤマト皇国で生まれし太刀、ムラマサか』
『そうだ』
『分かった。では、俺も名乗ろう。初めてお目にかかる。俺はソヴァール王国出身の冒険者リオネル・ロートレック。……魔法使いだが剣も使う』
『ふむ、リオネルよ。我には分かる。お前のその魔力、底知れぬパワーと量だ。尋常ではない!』
『そうか』
『ほお! 薄い反応だ。我が称え、褒めたのに、驕らず、誇らずか!』
『ああ、威張ったり、自慢するのは好きではない』
『ふむ』
『ムラマサ……お前はインテリジェンスソードのようだが、俺に何か用か?』
補足しよう。
インテリジェンスソードとは、自我、意思、知性を持つ刀剣類の事である。
しかし、自我、意思、知性を持ち、ただ、しゃべるだけではない。
索敵能力を持ち、敵の出現を注進したり、
油断、慢心で隙が出来た際、または敵が強大で敵わないと判断した際、
一時退却を促したり、
敗北した際、更なる鍛錬、雪辱戦を訴え、勇気を奮い立たせたり、
強力な武具であると同時に忠実な従士であり、主が心を許せる戦友でもあるのだ。
豊富な知識や経験を有し、主となった者へ仕え支えるインテリジェンスソードだが、
自ら魔法を放ったり、空中浮遊、自ら敵へ攻撃したりする、
至宝レベルのインテリジェンスソードも存在する。
ムラマサは自ら名乗り、ヤマト皇国の太刀であり、異世界から来たと告げた。
そして、リオネルへ話しかけた理由も明らかにする。
『リオネル・ロートレックよ。我は、仕えるにふさわしい
『仕えるにふさわしい主だと?』
『ああ、かつて我はヤマト皇国の名だたる人間族のサムライに仕えた。だが主が死に、時が流れ、我の存在は失われた……』
『……………………』
『気が付けば、我はひとり、不可思議な次元のはざまを旅していた。その際、天なる声が、お前にふさわしき、次の主と邂逅せよと告げて来たのだ』
『お前にふさわしき、次の主と邂逅せよ……』
『うむ、そして、……再び気がつけば、ここに……異世界の地の底へ居たのだ』
『成る程……』
『リオネル・ロートレック! お前は我の見立てに叶った』
『見立て?』
『そうだ! 我はここで、じっと身を潜め、感じていた! お前が襲いかかる竜や巨人をあっさりと倒す事をな! それもお前が従えた魔物どもを使役してではない! 自身の魔法、そして身体能力を使ってだ!』
『そうか……』
『ほう! お前の放つ心の波動が全く変わらない。気持ちがフラットだ。我が指摘しても、さもありなんというが如くだ』
『そんな大仰なものではないさ。俺は地道にコツコツとやっているだけだ』
『はははは、何が地道にコツコツだ! ノーダメージで竜や巨人をあっさり倒すのが地道にコツコツか?』
出現したインテリジェンスソードたるムラマサは、
邂逅したリオネルとの会話を楽しんでいるように見えたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ムラマサは更に言う。
『リオネル・ロートレック! 我には分かる! お前は我のように自我と意思を持つ者を身につけ、連れておる!』
何と!
驚いた事に、ムラマサは至宝『ゼバオトの指輪』の存在を見抜いた。
しかし、約束がある。
『ゼバオトの指輪』の存在は他言無用だ。
リオネルは無言で返す。
『……………………』
『だが、深くは聞かぬ。お前がもし我の事を聞かれても、差しさわりなく受け流し、多くは語らぬと分かるからだ』
『……………………』
『確信出来る。お前は約束を守り、信頼に足る者だ』
『そうか。あっさり裏切って、ムラマサ、お前を放り出し、逃げるかもしれないぞ』
『ふふふ、それはない! そういう嘘は、すぐにばれる。お前との会話は楽しいが、そろそろ本題に入ろう』
『本題か』
『うむ! 既に決めた! リオネル・ロートレックよ! 我はお前に仕える! お前に付き従い、支え、長き旅の友となろう!』
『ははは、一方的だな』
『うむ! それだけ言い切れる自信が我にはある! 我が刀身、ヤマト皇国一の刀匠が鍛えし魔導鋼は、どれほど敵を斬っても切れ味は落ちず、永久にさびもせず、血のりさえも残らぬ!』
『……………………』
『我は役に立つ! 何故なら、現世にありしものを斬るだけではない。我は退魔刀、破邪の力を持ち、ヤマト皇国では、鬼を始め、数多の魔の者どもを斬り捨てておった』
『退魔刀……』
『うむ! 我は鬼を斬る太刀。斬鬼刀とも呼ばれておった。それゆえ、我を怖れし、魔の者どもが、呪われし、死の妖刀ムラマサなどと、流言飛語を広めたのだ』
『呪われし、死の妖刀ムラマサ……流言飛語を広めた……』
『うむ、その為、誤解を受け、我は忌み嫌われた』
『……………………』
『我が魔の者どもに怖れられた理由が他にもある!』
『……………………』
『我は、実体無き、亡霊どもも斬り、浄化する事が出来るのだ』
『……………………』
『リオネル・ロートレック、お前ならば、究極たる我を完璧に使いこなし、肉体だけでなく魂を斬れる! この世界に跋扈する、不死の悪魔さえも、斬り捨て、消滅させる事が出来よう!』
『……ムラマサ、お前、もの凄い刀なんだな』
『ああ、必ずやお前の役に立つ。我を従士として、連れていけ』
『おいおい、ムラマサ。ずっと命令口調だし、お前本当に強引だな』
『押しが強い、と言って貰おう。それに我はもう100年もの間、待った』
『100年間!?』
『うむ、その間、我にふさわしくない者がここへ来た際、異界に姿を潜め、やり過ごしておった』
『え? そうなのか?』
『うむ、我は姿を消したり、こうやって、飛ぶ事も出来る!』
ムラマサはそう言うと、ひゅお! と浮かび上がり、リオネルの前に浮かんだ。
『もう待ちきれぬ。リオネル・ロートレックよ! どうあっても我を連れて行って貰うぞ!』
きっぱりと言い切ったムラマサは、絶対に退かない!という波動を強く強く発して来たのである。
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