第502話「人間を遥かに超越した身体能力に裏打ちされている」

『もう待ちきれぬ。リオネル・ロートレックよ! どうあっても我を連れて行って貰うぞ!』


きっぱりと言い切ったムラマサは、

絶対に退かない!という波動を強く強く発して来た。


だが、すぐに「ほいほい」と承知するわけにはいかない。


もしもムラマサが、魔族どもが言う通り、呪われし、死の妖刀であるとしたら……

リオネルはいつも最悪のケースを考える。

石橋を叩いても渡らないスタンスゆえに。


リオネルは、しばし考える。


インテリジェンスソードのムラマサはプライドがひどく高い。

己に絶対の自信を持っている。


そして発する波動に偽りは全く感じられない。


ムラマサは、嘘をついてはいない。


それに最悪、もしもムラマサが、呪われし、死の妖刀であるとしても、

リオネルは究極の防御魔法『破邪霊鎧はじゃれいがい』を習得している。

あらゆる呪い、特殊攻撃はリオネルには無効だ。


それにムラマサは100年間待って、気に入らぬ者はやりすごした上で、

自分を選んでくれた!


……リオネルは結論を出した。


ムラマサを……受け入れる!


『分かった! ムラマサよ、俺と一緒に旅をしよう! 但し俺からも条件がある!』


『ふむ、聞こう』


『まず断っておくが、俺は剣聖のような達人ではない。剣技は我流であり、いろいろな人の良いとこどりでもある。そして、お前を特別扱いしないし、わがままも一切受け入れない。……構わないか?』


『全然構わん。条件を言え』


『よし! ……ひとつ、俺をあるじと仰ぐのなら、指示に従い、約束を守る事』


『うむ、リオネルよ、お前の底知れぬ力、そして実直な心根は分かっておる! 我は心からお前を認め、指示に従い、交わした約束を厳守しよう』


『……ふたつ、仲間たる精霊、妖精、魔物とは争わず、相手を尊重して礼を尽くし、力を合わせ助け合い、仲良くするように。これは俺と旅をする者全てに徹底している』


『うむ、分かった。お前を認め従う者どもを尊重して礼を尽くし、力を合わせ助け合い、仲良くするように心がけよう』


『……みっつ、俺はこれまで、数多の出会いと別れを繰り返して来た。俺とかかわり、絆を結んだ者を種族を問わず、守りたい。ムラマサ、お前も力を貸してくれ』


『ふむ、お前と絆を結んだ大切な者達を守れば良いのだな……分かった! 我が守ろう!』


『ありがとう! ……以上だ』


『条件は都合3つか! 了解した! 我は厳守すると誓う! また何かあれば、おいおい指示をしてくれ』


『分かった! で、俺はどうしたら良い』


『リオネルよ! 我はお前に身をゆだねる。遠慮なく我をつかみ、腰へさせば良い!』


『よし! こうか!』


リオネルは、スクラマサクスを外して収納の腕輪へ。


そして、宙に浮かんださや入りのムラマサをつかみ、ベルトについた剣携帯の器具で、落とさないようしっかり固定した。


腰にさされる形となったムラマサは、歓喜の声を上げる。


『おお! リオネル! 感じるぞ! お前の底知れぬ魔力! 人間族を遥かに超えた身体能力も! そして数多のスキルもだ! やはり! お前こそ我を使うにふさわしい!』


そして、


『さあ行こう! 我をお前の仲間達へ紹介するが良い!』


相変わらず尊大な態度だが、死やダメージは勿論、

呪われたり、意識を囚われる事はなかった。


『呪われし、死の妖刀ムラマサ』は、

やはり魔族による『流言飛語』だったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


こじんまりした1棟建築物。

しかし、何か不可思議さ、神々しさを感じた古代遺跡にて、

リオネルは、インテリジェンスソード『ムラマサ』と邂逅した。


ムラマサは、異世界ヤマト皇国から次元を越え、やって来たという。


多分、ボトヴィッドが邂逅した『ゼバオトの指輪』も同じか、限りなく近いのかもしれない。


またひとつ、謎めいた事象が解明される事実が発覚した。


ムラマサとの邂逅と同時に、リオネルは素直に嬉しい。


再び、古代遺跡の室内を丹念に調べ、やはり何もない事を確認したリオネル。


敵の有無を確認後、魔導光球を消し、ゴーレムを収納の腕輪へ戻し、室外へ出た。


ムラマサへ話しかけてみる。


『おい、ムラマサ』


『なんだ、リオネル』


すぐ返事が戻って来て、リオネルは微笑む。


『長き旅をした後、ずっとさやへ入っていたんだろう?』


『ああ、そうだ』


『太陽ではないが、さんさんと降る、光を浴びたくはないか?』


『ああ、浴びたいな。頼む』


『よし! じゃあ、俺もムラマサを抜き、素振りをさせて貰おう』


『うむ、構わぬ』


リオネルは、改めて周囲を探る。

相変わらず、索敵も視認も異常はない。


仲間達はといえば、離れた場所で、探索を続けているようだ。


頷いたリオネルは、しゅばっ!とムラマサを抜いた。


やはりムラマサは、これまでリオネルが使っていた剣とは全く違っていた。


例えば愛用のスクラマサクスは、片刃の直刀で、

肉切り包丁や鉈に似た無骨な外見を持つ。


対してムラマサは、片刃なのはスクラマサクスと同じだが、刀身は細く長い。

また刀身は、全体として浅い反りがあり、鋭さを感じさせる形状である。


村正に告げたが、リオネルの剣技は我流。

決まった型はない。


剣技レベルはぐんぐん上がってはいる。


だが肉弾戦の格闘技も含めて、武器を持ったリオネルの強さは、

膂力は勿論、たぐいまれな動体視力、身体さばき等、

人間を遥かに超越した身体能力に裏打ちされている。


さてさて!

いつもの癖だが、リオネルは武器ありきで、構えてみた。


「持った感じ、いつも使ってるスクラマサクスとは全然バランスが違うな……少しずつ慣らして行こう」


リオネルはつぶやくと、ひゅお!ひゅお!ひゅお!と軽く3回ほど振ったのである。

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