第495話「君は自身の探索、修行を続け、地下150階層まで来れば良い」

「リオネル・ロートレックとやら! 私への届け物を、どこの誰に頼まれたのだ?」


少年ゴーレムは、今までと全く違う口調で、リオネルへ問いかけていた。


リオネルはすぐに気づき、指摘する。


「……成る程。貴方はこのゴーレム達の術者だ。違う場所からの遠隔操作で、俺と直接話す事が出来るのか?」


リオネルの問いかけを聞き、少年ゴーレム……否、術者は言う。

少しイラついたのか、感情がこもっていた。


「質問に質問で返すか……その通りだ。答えよ、リオネル・ロートレック。私への届け物を、どこの誰に頼まれたのだ?」


「分かった! 但し、答える前に貴方へひとつ質問をしよう」


「また質問だと?」


再び焦らすのか?という感情が、リオネルへ伝わって来る。


しかし、リオネルは引かない。


「ああ、貴方が約40年前、ある人間族の魔法使いの冒険者へ、友情のあかしとして送ったゴーレムの名を答えてくれ」


「何? 約40年前、ある人間族の魔法使いの冒険者へ、私が友情の証として送ったゴーレムの名だと?」


術者はリオネルの言葉を繰り返した。


リオネルはきっぱりと告げる。


「ああ、俺は貴方からゴーレムを贈られた相手からの依頼で届け物を預かった。答えられねば、届け物は渡さない」


「……分かった。答えよう。約40年前の事はおぼえている。確かに、人間族の魔法使いの冒険者へゴーレムを贈った」


「そうか」


「ああ、そのゴーレムの名はアートスだ」


術者はズバリ答えてくれた。


リオネルは大きく頷く。

確信を深める。


「正解です、イェレミアスさん。俺、貴方がゴーレムのアートスを贈ったボトヴィッドさんから手紙を預かって来ました」


「おお! おお! ボトヴィッド・エウレニウスか! な、懐かしい!」


「貴方がフォルミーカ迷宮の深層に棲むアールヴ族の魔法使い、イェレミアスさんですね」


「うむ、そうだ。私がイェレミアス・エテラヴオリだ」


「イェレミアス・エテラヴオリさんとおっしゃるのですね。改めまして! 俺はソヴァール王国出身の冒険者リオネル・ロートレックです。魔法使いです。ボトヴィッド・エウレニウスさんの経営する魔道具店クピディタースの客ですが、ひょんな事から親しくなりました」


捜していたイェレミアス相手ではあるが、さすがに至宝『ゼバオトの指輪』譲渡の経緯は話せない。


対して、イェレミアスは大笑い。


「ははははは!」


そして、


「人間は寿命が短い。ボトヴィッドめ! あの頑固者がまだ生きていたか! それも気に入られただと?」


と尋ねて来た。


リオネルは、


「はい、ボトヴィッドさんは、お元気です。そしてイェレミアスさんに会えたら渡してくれと手紙を預かりました」


……何とか、頼み事は果たせそうだ。


リオネルは再び大きく満足そうに頷いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「リオネル・ロートレック。お前がこの深層を探索している事は気が付いていたよ」


とイェレミアスは言う。


リオネルが問う。


「どうします? 預かっている手紙、この子達へ……ゴーレム達へ渡しますか?」


しかし、少年ゴーレムは首を振る。

術者は否定したのだろうが、おかしな気分である。


「いや。リオネル・ロートレック君。君には直接会いたい。今回の探索でどこまで降りるつもりだ?」


そう言われ、リオネルは正直に答える。


リオネルもイェレミアスに直接会いたいのは同意だ。


「イェレミアスさんのいらっしゃる場所を教えて頂ければ伺いますよ」


こんなリオネルの問いに対し、


「申し訳ないが、私が今どこに居るのかを答えるわけにはいかぬ」


「では、どうすれば宜しいでしょうか?」


「うむ、人間族が到達した地下150階層まで来てくれ。そこで君に会おう。その時にボトヴィッドからの手紙を受取ろう」


朋友ボトヴィッドが気を許したとはいえ、さすがに初対面のリオネルに気を許してはいないようだ。


まあ、仕方がないだろう。

どうせ、元々地下150階層は行くつもりであったし、リオネルの最終目標は未知の地下300階層である。


「了解です。では改めて、地下150階層でお会いしましょう」


「うむ、待っているぞ。まあ大丈夫とは思うが……死ぬなよ」


「分かりました。ゴーレム達が行っている、果実の収穫を手伝いましょうか?」


そんなリオネルの申し入れも却下される。


「いや、それには及ばん。君は自身の探索、修行を続け、地下150階層まで来れば良い」


イェレミアスはそう言い放つと、ゴーレムの制御を切った。


4体のゴーレム達は、何もなかったかのように、果実の収穫を再開したのである。

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